New 2011.4.21
太陽光発電の薦め

海野氏推薦 感動的記事       『峠の落とし文』より

海野和三郎先生、韓国天文宇宙科学研究院
  電波望遠鏡天文台を訪問


  ( KASI: Korea Astronomy and Space Science Institute) 
海野先生は10数年ぶり東大時代の韓国留学生にお会いになられた。

いずれも韓国の天文学の開拓を担ってきたお弟子さんたちです。

来年は韓国で初めて国産ロケットを打ち上げるとのことです。


柳教授ご夫妻は空港までお見送りに駆けつけしばしの間、歓談を
されました。
                  
  1、金斗煥 (Kim Du Hwan)S50 修士、S54博士終了 
     亜洲大学宇宙計測情報工学科教授・宇宙開発専門委員衛星体小委員会委員長
     
  2、柳桂和(Yu Gye Hwa)S56修士、S59博士終了 梨花女子大教授(物理学)

  3、趙世衡 (Jo Se Hyeong)S60博士終了韓国電波天文台(延世大学キャンパス内)

  4、鄭玄洙 (Jeong Hyeon Su) H01博士終了 電波天文台
Korean VLBI Network (KVN) Group

The KVN project has been started from 2001. Our KVN will be the first VLBI facility in Korea, which plans to install several cryogenic HEMT receivers working in the frequencies of 2/8, 22, 43GHz bands. Studies have been decided and also the directions to achieve the goals have been studied. The data acquisition system and other interface devices have also been studied. We decided the MIT Haystack Observatory's new Mk 5 as our KVN recorder and made a contract for development of Mk 5. We plan to study this recorder to make copies for our KVN. We also drive forward for international collaborations in several VLBI research areas.
The environmental conditions to build KVN observatories have been studied. Especially the radio noise features of the sites are important. So the noise measurement system has been designed and constructed. The site measurements have been made for 2 months. To decide the final locations of the 3 KVN observatories the KVN consulting committee has given recommendations by evaluating the site conditions.
This work will be the basic research document for our 5-year KVN project and play an important role in proceeding the KVN construction. Except using for the construction of KVN the other applications could be made after the KVN project has been competed successfully.

日本・韓国間でミリ波によるVLBI観測に成功

韓国天文研究院、大徳電波天文台と日本の国立天文台は、この6月に、それぞれの電波望遠鏡を
使用して、波長3.7ミリメートルのVLBI観測をおこないました。そして、「オリオン座KL天体」
および晩期型星である「おおいぬ座VY星」からの一酸化ケイ素によるメーザー輝線の干渉信号
(フリンジ)を検出し、観測に成功しました。この波長によるVLBI観測の成功は、日韓両国に
とって意義深いものと思われます。

 日本で使用したのは、長野県野辺山の45メートル電波望遠鏡で、韓国のものは1986年に建設
された大田市、大徳電波天文台の14メートル電波望遠鏡です。この両望遠鏡の距離は約1000キロ
メートルあります。天体が放射している電波をこのように距離の離れた二つ以上の電波望遠鏡で
受信し、その受信信号を干渉させることができれば、その電波を出している天体を非常に高い
分解能で観測することができます。干渉させるためには観測結果を持ち寄って、相関機で再生
して相関処理をおこなわなければなりません。観測に成功したことは干渉結果にフリンジが
出ることで確認できます。このような観測方法を超長基線電波干渉法(Very Long Baseline
Interferometry;VLBI)といい、精密な位置観測や天体の微細構造を突き止めるために用い
られます。この方法は望遠鏡間の距離が遠くなるほど分解能が高くなり、天体の細かい構造
がわかります。

 今回観測に用いられたのは、一酸化ケイ素(SiO)の出す波長3.7ミリのメーザー電波です。
VLBIの観測は波長が短いほど困難になります。波長3.7ミリはVLBIの観測としてはもっとも短く、
困難なものでしたが、6月2日の観測では、それに見事に成功しました。この波長3.7ミリの
観測を積み重ねることによって、年老いた星のガス放出のメカニズムや、銀河中心の巨大
ブラックホールの解明などが期待されています。

 今回のVLBI観測の成功は、その結果もさることながら、アジアにおいて、波長3.7ミリの
VLBI観測を二国間で初めておこなったこと、特に韓国で初めてVLBI観測に成功したことで
意義深いものがあります。現在国立天文台は天文広域精測望遠鏡計画(VLBI Exploration
of Radio Astrometry;VERA)を推進し、銀河系の精密立体地図作りを目指しています。一方
韓国ではVLBIネットワーク(Korean VLBI Network;KVN)を建設中です。今後日韓協力が進めば、
VERAとKVNを重ね合わせたより大規模のネットワークによって、より高精度の地図、より
高精度の天体画像が得られることが期待されます。

参照「日韓VLBI成功」記者発表資料(Sept.27,2001)
2001年9月27日 国立天文台・広報普及室
転載】国立天文台・天文ニュース(481)


第4回新エネルギー世界展示会

  海野和一郎先生が太陽光発電の試作品を展示されます。
  
6月26日14:00〜14:30 海野、大木先生の発表がありました。   

 2009年 6月 24 日(水)〜6月26 日(金)10:00〜17:00
 会 場: 幕張メッセ〔国際展示場/国際会議場〕

 同時開催: PVJapan2009(共催:SEMI、太陽光発電協会)
 主 催: 再生可能エネルギー協議会
 共 催: (独立法人)新エネルギー・産業技術総合開発機構、
     (独立行政法人)産業技術総合研究所、財団法人新エネルギー財団
 後 援: 経済産業省、環境省、国土交通省、文部科学省、農林水産省、 
      東京都、千葉県 

 詳細→ http://www.renewableenergy.jp/top.html 
 

「 石油火力より格段に安く電力を得る
  ─ 森と海と人の和の太陽エネルギー工法─ 」

          東京大学 名誉教授 海野 和三郎


太陽エネルギーは、適量の水と大気に恵まれた地上の生物にとって奇蹟とも言
うべき天与のエネルギーである。
しかし、化石燃料に依存した文明となった20世紀以降はエネルギー源としては
強度が不足して来ている。21世紀には、農業などによる自然の太陽エネルギ
ー利用よりも10倍程度の再生可能なエネルギー源を必要とすることになる。水
力・風力、バイオ・マスなど再生可能な自然エネルギー利用は大いに奨励され
るが、恐らく現在の2倍以上の利用はエネルギー価格の点で問題が生ずるであ
ろう。

その点、太陽エネルギーと地熱エネルギーの直接利用の効率を10倍以上にする
工学の開発が有望である。

一つは、国が総力を挙げて取り組むべき大規模計画として、地熱海洋発電があ
る。硫黄島地下1000bのマグマの高温と海洋大循環のもたらす3℃の無尽蔵の
深海水を結合して発電すれば、沸騰蒸気圧1000バールでの蒸気タービンの熱機
関としての発電効率は殆ど1となり、海洋大循環の流量の約1000分の1を用い
て地球全体の人類の使用エネルギーをまかなえる勘定となる。
第2は、家庭規模の小規模太陽エネルギー工学である。現状では、太陽光発電
パネルが数万円/m2と高く、石油火力に対抗するには10倍以上効率を上げる必
要がある。発電効率も10 乃至20%程度で80%以上のエネルギーは熱となって捨
てられている。太陽熱温水器は真夏では70℃くらいになるが、冬では30℃程度
で、風呂の温水を得るにはよいが発電には向かない。
両者共通の欠点を10倍集光によって取り除き、なお残る両者共通の欠点である
非定常性と使う処で造る汎用性とを相打ちとし、それぞれの長所を生かし短所
を補えば、両者の結合により、石油火力より格段に安い発電が可能である。

簡易「シデロスタット式非結像10倍集光系」を太陽光発電パネルの価格程度
で造り、パネルを水冷して温度上昇による効率低下を防ぎ、温まった温水を熱
水装置の予備加熱とすれば、水深15cmのボイラーは昼間の太陽熱で1時間
で沸騰する。
ただし、ボイラーは対流防止の簡易粘性ソーラーポンド方式を用いて熱損失を
少なくする必要がある。10倍集光すると太陽エネルギー強度は対日温度が約
350℃となる水星の環境となり、太陽光は生物環境ではなく、エネルギー源と
しての機能を持つ。対流防止のソーラーポンド方式は、海が長年の進化で塩度
が下ほど濃くなる対流防止効果で地球全体の保温に用いており、一方、森は水
を使って風をおこし葉にCO2を効率よく供給して光合成を盛んにしている(矢
吹機構)。葉というソーラーパネルの効率を上げるのに集光の代わりに風を用
いたわけである。

こうした家庭規模で可能な水星と海と森の太陽エネルギー工学は、集光の光学
系、発電、蓄電、電気分解による水素合成、燃料電池などの技術開発を必要と
するが、各方面の既存の技術からの開発は比較的容易である。化石燃料依存の
文明から太陽エネルギー文明への移行を早期に実現するのが、日本の進むべき
道である。

【 参 考 】
家庭用1KW発電蓄電装置:(太陽エネルギー:9KW,発電効率30%、有効発電
時間:1/3)第1鏡(開口面積9m2):3万円、第1鏡支持シデロスタット
:2万円、第2鏡:1万円、第2鏡支持台:1万円、ソーラーポット:3万円
、太陽電池パネル(0.3m2):4万円、発電タービン・蓄電池:10万円、:
 合計24万円(10年使えば月2000円)

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(1) 米本昌平、中央公論 平成10年1月号。
(2) W.Unno,Publ.Astron.Soc.Japan,14,153-163,1962;ibid.,15,405-411,1963.
(3)矢吹万寿,風と光合成,農文協,1990。
4)福井英一郎・吉野正敏,気候環境学概論,東大出版,1979。
(5)M.G.Gross,Principles of Oceanogrataphy,Prentce
   All,7th edd.,1995.
(6)W.Unno and M.Taga,Jpn.J.Appl.Phys.32,1329-1333,1993.
(7)海野和三郎,将来エネルギーと環境の物理学,日本物理学会誌,
   51、727−733、1995。S.Broecker,Science,278,1582-1

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海野和三郎(うんの わさぶろう):東京大学名誉教授
        
NPO法人東京自由大学学長,天文学者、理学博士

略歴:
 1925年10月2日埼玉県生まれ。1943年:旧制埼玉県立浦和中学校(現・埼玉県立
 浦和高等学校)卒業 1943年:旧制第一高等学校(現・東京大学教養学部)入学
 1947年:東京帝国大学理学部天文学科卒業 1947年:東京大学理学部助手
 1952年8月:東京大学付属東京天文台助教授 1953年4月:東大理学部助教授
 1963年4月 -東大教授 1986年退官 1986年 近畿大学教授。先事館先事研究所長
 を経て、NPO法人東京自由大学学長。

著書:『天文・地文・人文』(東京書籍1980年)
   共著『星と銀河の世界』(岩波書店)「星の世界をたずねる」1984年)「されど天界は変わらず・
   上諏訪日誌』(東大理学部天文学教室編1993年)『わたしの韓国語自修法』(東京書籍)

  海野和三郎の門下生一覧
   下田眞弘 加藤正二 尾崎洋二 正木功 岡本功 菊池仙 近藤正明 祖父江義明 笹尾哲夫
   米山忠興 平川浩正 藤本眞克 井上一 蒲田健二 正木功 牧田貢 出口修至
   スバル望遠鏡スタッフに海野門下生が多い。


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  地球温暖化の天文学
     東京大学名誉教授・先事館先事研究所 海野和三郎


     要 旨

地球温暖化の物理はまだ地球物理になっていない天文学のストーリーの段階である。
地球重力のもとで、太陽エネルギーと水で代表される地球環境という考え方がエネルギー
問題、環境問題を本質的に解決するための理念である。気象学と地球環境学とは同じ現象を
扱っても視点が非常に違う学問であることを理解する必要がある。


  は じ め に
COP3という地球温暖化問題国際会議(京都)が97年12月に開かれた。米本昌平
「文明論としての地球温暖化」(1)を見ると、アメリカを初めとして二酸化炭素排出を
一種の権利とみなし、その権利を市場原理で取り引きしようとしているという。根拠は
硫黄酸化物の排出権売買の実績と、市場化が最良の政策手段であるという彼らの信仰に
あるということである。 戦争によらず、国際会議で世界の国々が問題を討議したことは
大いに評価されるが、地球温暖化は硫黄酸化物のような人為的かつ比較的に局地制御の
容易な問題ではない。温暖化の原因も二酸化炭素濃度だけで閉じた問題でなく、究極的な
危険性もよくわかっていない。誰の目にも明らかなことは、地球が何億年もかけて貯えた
化石資源を100年そこそこで浪費しようとする現代人の罪悪である。 「意味のある精緻さ
をもった生命像や地球像を提示することが、豊かな人生の基礎となるような、価値創出と
しての自然科学研究」(1)が地球環境問題を契機に発展することを期待しよう。

1. 何故CO2削減か
CO2は地球温暖化ガスでありCO2削減は温暖化防止のためであるという考えが一般に普及して
いる。CO2削減には大賛成であるが、賛成理由は将来世代へ化石燃料という資源を残す責任が
ある(“エネルギー環境第1原則”)というのが主たる理由であって、温暖化防止論にも賛成
ではあるが、疑問も持っている。むしろ、これらの疑問を根底まで掘り下げることにより、
CO2問題を契機として地球環境問題の根本に迫るのが最も時宜に適したわれわれの戦略で
あろう。地球環境学は気象学を始めとする地球物理学とは違う学問分野であることをまず
強調しておきたい。それについては、地震学と地震予知学とは音楽と音響学ほども違うこと
の認識が地震予知学の発展に必要だ、という畏友上田誠也の言が、そのまま地球環境学にも
あてはまる。たとえエルニーニョとか梅雨とか同じ問題を考えていても、気象学と地球環境学
とは考えている視点や時間尺度が同じではない。地球温暖化の本当の問題点は、高次元の複雑
系である地球環境に対し一寸した温暖化が、さらに不安定な温暖化を呼ぶか、或は逆に一転
して氷期に突入する引鉄になるかもしれないという環境カタストロフィーの怖さである。
第2の注意すべき点は、最大最強の温暖化ガスはCO2でなく水蒸気だという事実である。
CO2の温室効果は、天体物理では吸収線毛布効果として知られる比較的簡単な物理で、その
地球温暖化に対する1次効果は容易に計算できるが(2)、問題はその結果が水にどうはね
かえるかである。水は温暖化に対して促進もし抵抗もする、またそれも局地性もありグロー
バルな変動モードもある。水が如何に地球環境を作っているか、まずその物理を議論しなく
てはならない。

2.水と太陽
地球重力の場において、太陽と水とは極めて相性がよい。その相性の良さが生物を育み、
その生物が地球環境を温和なものにしている。人類はやはり太陽エネルギーを使い、水の
もつ自然の摂理によって生きるべきであろう(“エネルギー環境第2原則”)。

先ず、大気がなくて、地表が熱伝導度無限大の黒体であると仮定して、温度Ts、半径RS
の黒体輻射の太陽によって、距離Aだけ離して照らされているとすると、エネルギー収支の
バランスによって、地表温度TEは(Rs/2A)(1/2)Ts、約6℃となる。この仮想標準地表温度は
とても生物によい値で、水が標準気圧で液体である。よく30%の反射能を仮定して−18℃、
これに大気の温室効果を加えて15℃という値をいうことがあるが、有効数字一桁の曖昧さを
持った仮定から出した数字よりも、現在の気象でなく将来の地球環境を問題にする場合には、
明確に定義された上記の仮想標準地表温度を基準とするほうがよい。ここで用いた完全熱伝導
体の仮定(場所によらず温度一定)は、水が太陽光の主成分である可視光に対して数10m透明
でかつ常温の赤外熱輻射に対して完全に不透明であり、比熱容量が大きいことで近似的に満た
される。即ち、水深30mの水に1平方mあたり500W(中緯度日中平均)の太陽光で暖めても、
温度は0.1℃も上昇しない。この水の絶大な集蓄熱作用が地球環境を守り、また人類を含む
生物生存のエネルギー源ともなっていることは特筆すべきである。1日よりもっと長い時間を
扱うには、主として対流による熱エネルギー輸送で冷える効果を入れなければならないが、 これ
は対流の流体力学も同時に解くことになり、また境界条件などすべてが時間依存なので一般には
面倒である。しかし、対流に混合距離理論を使い渦粘性と渦熱伝導を平均値で置き換えて、境界
条件も定常に固定すれば、1次の摂動計算で一応満足すべき精度で結果が得られる。例えば、
サイン的なエネルギー入射に対して、単純な熱伝導モデルで8分の1の位相の遅れ(1日では
3時間、1年では1.5月)が出せる。しかしながら、長期の取扱いには大気との相互作用特に
風の影響、500乃至1000mより浅い所と深い所の相互作用、海流や海洋大循環など非局所効果が
重要になってくる。こうした種々の効果をモデル化して地球全体のモデルに繰り込むには常に
不確かさが伴うが、地球全体を平均化して、マイルドな地球環境を作っているのは海洋即ち
水の作用であるという結論は不動である。大気も大地も勿論重要であるが海に比べると補助的
である。その理由は、大気は熱輻射に対して半透明で毛布効果は不完全であり、かつ約10m
の厚さの水くらいの質量しかなく熱容量が極めて小さいので、海洋や大地との熱交換がなけれ
ば温度変化の時間尺度は極めて短い。また地面は逆に可視光に対しても不透明でかつ熱伝導度
も大きくないから1年変動に対するスキンデプスが約1m、1日では約5mm、日変化では
表面だけ熱く(冷たく)なっても地中には届かない。日変化に対する保温には不向きだが、
年変化に対する保温は有効である。これが井戸水の温度が夏冷たく冬暖かい理由であり、
水の無い砂漠では、日中暑く夜は寒い理由である。

以上述べたように、水の絶大な集蓄熱機能が地球環境を守っていることは間違いないが、水の
機能はそれだけではない。水の飽和蒸気圧は生物の生存に適した温度の範囲で温度と共に
かなり急速に上昇する。そのことは、生物生存の条件の範囲で、気温変化による水蒸気と水と
の相転移が起こることを意味する。実際、水のある所の大気は水蒸気をかなりの割合で含むから
冷やすと雨や霧を生じ、暖めると消えてその間の潜熱を出すので、温度変化に抵抗する。即ち、
いわゆる断熱温度勾配が小さくなり、対流を盛んにするのである。これは、上空と地表の温度差
が少なくなるように働く。端的に言えば、地上から蒸発熱を奪い、上空で捨てることになる。
しかし、一方では、地表の気温が高くなると、水蒸気量が増え、上空で雲をつくるから、
これが太陽光を遮り、地表の気温は下がる。これは太陽という熱源が外にあるためのもう
一つの効果である。水さえ十分にあれば、これらの調節は、生物の生存に適した温度範囲で
行われる。水は生物の生存を脅かすような温暖化にも寒冷化にも抵抗するのである。そういう
視点は勿論気象学にもなくはないが、強調されることは殆ど無い。また、上に述べたことは、
地球重力のもとで窒素と酸素を主成分とする1気圧の大気に対していえることで、火星や金星
大気では成り立たないが、生物発生と環境進化を考える際には注意が必要である。

3、植物は陸上の水
陸上では、海上ほど水はないが、植物がある。植物の働きとしては、バクテリアから高等動物に
至るすべての生物の食物連鎖を支える光合成の重要性がまず強調される。しかし、植物の働きは
そればかりではない。植物の葉の占める総表面積は場所によっては地表面積をしのぎ、葉は根
から吸い上げた水を水蒸気にして大気中に放出する。風がその働きを一段と増強する(3)。
その風は水が活性化した対流作用の一環である。根は水を保ち、補給する。樹海という言葉が
あるが、森林は正に海なのである。森は、夏涼しく冬暖かで、生物を育む点で海と同様な働きを
している。その働きの中心をなす媒体が水に他ならない。植物と太陽と風と川や地形のなす系は
いろいろなスケールで考えられ、砂漠の緑化の問題とも関連し、今後の環境科学の一部門となる
であろう(3)。熱帯雨林や山脈、砂漠の分布など全体として気象変動のモードをつくり、カオス
的気候変動を生み出す。カオス的変動にはカタストロフィックなものもあるが、植物の関与した
ものは水の作用と同様に全体として調和の取れた温和な変動となる事が期待出来る。このことは、
気象学ではさしたる意味を持たないが、地球環境学においては極めて重要である。

4.地球環境は超複雑系である
地球が全面水に覆われていたら、大気との相互作用や海水の温度と塩度との二重拡散による対流で
かなりの複雑系であるとはいえ、それでもグローバルな長期変動に関しては比較的簡単な理論的
取扱いができるであろう。しかし、実際には大陸の不規則な配置による局所性があり、それに気象
で扱うような短期変動があって、両者が非線型でグローバルな長期変動と相互作用すると、地球
環境はもはや超複雑系であり、解析的な手法は部分的に適用できても全体を取扱うことは不可能で
ある。社会変化・大気海洋過程・気候変動の影響を、同等の重みづけで設計・開発したコンピュー
ターによる統合モデルというのがあって、温暖化問題に関してはオランダのIMAGEと日本の国立環境
研のAIMとがよく知られている(1)とのことである。数十に及ぶ非線型効果が理論的或は統計的に
取り込まれていると聞くが、恐らくモデルに入っているパラメータは現時点のデータから決め
たもので、パラメータの完全性と時間依存性及びパラメータ間の相互依存性に問題がある。
勿論こうしたモデルを作ることは極めて重要であり、それに注ぐ努力はいくら評価しても評価
しすぎることはないが、モデルの適合性はあくまで短期的なもので、10年毎には大幅な見直し
を必要とするものと思われる。 即ち、来年の台風の発生や10年後のエルニーニョ、千年後の
海洋大循環のモードパターンの変動などが予測できる精度のモデルになっていないし、そうなる
ためにはさらに高次元の精緻なストーリーをつくる必要があるであろう。即ち、1年変動の系は
10年変動の系に、10年変動の系は100年変動の系に、100年変動の系は1000年変動
の系にフラクタル構造をなして包含されているのである。また、長期変動は短期変動の環境と
して働く。従って、地球環境を複雑系と見たときに、どの視点に着目するのがよいかが問題で
ある。その視点に応じた適切なモデル造りがなされなければならない。
国際条約によって定義された気候変動とは、“地球大気の構成を変化させる、人間活動に直接
間接に起因する、相当期間にわたって観測された気候の自然的変化に追加される変化”とされ
るが、人間活動に起因すると定義する限りでは二酸化炭素は、メタンやフロンと共に、温暖化
ガスであり、そのうちでも最強のものである。しかしながら、温室効果ガス(天体物理でいう
吸収線毛布効果)でいうと、最大最強は実に水蒸気に他ならないのである。地球を外から見ると、
地球から月を見るような太陽光の反射とそれに大気の分子やエアゾルによる青い散乱光が重
なっている。しかし、それは入射光の約3割で、あとの約7割の大部分は遠赤外の熱輻射である。
熱輻射は各波長域で光学的深さが1になる層(外から入射した輻射の強度が1/eに減衰すると
ころ)の温度の黒体輻射と考えてよい。地球大気では、遠赤外域の光学的深さを支配している
のは大部分の波長域で水蒸気の吸収であり、近赤外に近い一部でCO2が効いているに過ぎない。
CO2量が2倍になっても地表温度が数度程度の上昇で済むのはそのためである。もし、大気中
の水蒸気が倍増すれば、遠赤外の光学的深さが倍増し、温室効果は多少飽和して頭打ちになる
がほぼ倍増するから、地表温度は輻射だけを考えれば40度ほど上昇することになるであろう。
しかし、実際は前に述べたように水蒸気が対流を盛んにし、また雲をつくり、或はエアロゾル
粒子を大きくして太陽光入射を減らす。水蒸気量の増加は地表温度の上昇になるか下降になる
か気温、湿度、気圧、即ち気象によって変わるのである。さらに、問題を局地的でなくもっと
グローバルにするとどうなるか、もっと長期的に1年(地球公転周期)、十年(太陽黒点周期)、
百年(太陽活動長周期)、千年(海洋大循環周期)、万年(氷期)を考えるとどうなるか、予想が
極めて困難であるのが複雑系の性質である。 気候変動を条約で決めることは必要であるが、
自然は条約で記述できない。記述できないことを記述しているという認識が条約をつくる際
には不可欠である。

5.二酸化炭素問題の重要性
CO2問題の重要性は化石燃料消費に伴う急激な気候変動の問題もあるが、もっと地質学的な長期
にわたって、人類の将来のみならず、地球とあらゆる生物の環境に対して重要であることは言う
までもない。 その重要性は地球大気の進化を考えれば明らかである。原始の大気は、金星や火星
と同じくCO2が95%以上の圧倒的に二酸化炭素大気であったといわれている。違いを作った
のは第1に水の存在であった。水中のCO2は、最初は無機的についでストロマトライトなどの
微生物やフズリナ、サンゴ、貝類などにより十数億年かけて固定されプレートに乗って石灰岩
として大陸に埋めこまれた。大気中に残ったCO2は、藻類や植物の光合成で水と結合し含水炭素
として取り込まれ、余剰の酸素が大気中に放出された。現在大気中に残されたCO2は、80%弱
の窒素約20%の酸素に対し、約0.04%植物など全部燃やしても約1%しかないが、海水中には
その50倍以上が溶け込んでいると言われている(4)。しかし、原始の大気中にはそれより
2桁も多かったことになるのである。ストロマトライトが光合成で酸素を最初に作り始めた20
数億年前の太陽は現在より2割くらい光度が低かったが当時のCO2の毛布効果も大きく、3億年前
の石炭紀以来のCO2現象と太陽の増光とはほぼ釣り合って、生物環境は微生物や植物によって維持
されてきた。とはいえ、古生代末期二畳紀と三畳紀の間の生物種の大量絶滅など地球環境の危機
が何度か地層に記されているのも事実である。それほど大規模な変動でなくも、惑星運動に起因
するミランコビッチサイクルのような1万年オーダーの氷期間氷期の変動もある。大気と海、
生物と化石燃料、そして海洋大循環やプレートの運動、それらの間の炭素の循環がいろいろな
時間尺度で回っている。そうしたCO2の歴史を勘案すると、CO2問題の最重要課題は海洋特に
海洋大循環にどう影響するかであろう。それについて以下に議論する。

6.北極海と海洋大循環
どれほど小さくてもマントルからの熱流量がある以上、もし海が静止していれば、深い所ほど水温は
高い筈である。しかし、そのような海は北極海と南極周辺にしか存在しない。太平洋の(大西洋、
インド洋も同じであるが)1000mより深い深海の温度は3℃とか4℃とかの低温でそのため大量の
CO2を保持できる。低温の理由は深海が北極海の延長であると考えると理解できる。その北極海と
太平洋深海を結び付けているのが海洋大循環に他ならない。このことは、海洋物理にとっては常識で
あるが、地球環境学にとっては誰にも分かる海洋大循環の原理の解釈が必要である。

海洋大循環は北大西洋の表層水の蒸発に始まるとされている(5)。蒸発した水蒸気は太平洋上の
雨となり、
塩度は大西洋で高く太平洋で低い。これに北極からの冷たい乾いた風が吹いて、さらに塩度が上がる
とともに冷やされ、重くなって沈み北大西洋深海水となり、西大西洋海盆を南下する、という訳である。
北極圏の降水量は大循環流量の1割程度だそうであるから、この順還流による説明は量的に正しい
記述であると思われるが、それでは、何故太平洋深海と北極海底とが同じ温度であるのか、何故
海洋大循環が南北非対称で大西洋赤道を越えてさらに南下しインド洋太平洋に到るのか素人分かりの
する説明になっていない。現在の地球環境の説明には観測事実が矛盾無く説明できればそれでもよいが、
環境変化を問題にする地球環境学としては原理が誰にでも分かるストーリーでないと不十分である。
地球物理学における同様の傾向はプレートテクトニックスにもみられ、日本付近のプレートの運動は
マグマの冷えて重くなったプレートの沈み込みだけですまされることが多い。

また、潮汐摩擦で地球自転が遅くなり、月が遠のく現象も同時性のために事実関係に終始して因果関係は
問題にされないことがある。いずれも正しい記述であるに違いないのだが、どちらかというと事実関係
よりもストーリーに重きを置く地球の天文学としては不満が残る。さて、海洋大循環の天文学では、
まず塩度は北大西洋および北極海における混合によって少なくも深海水に関してはほぼ一様で塩度の
大循環に及ぼす影響は2次的と考える。そうすると、大循環をドライブするのは専ら北極海で作られた
冷海水が積もって作る圧力超過ということになる。北極海が如何にして冷たい水を作るのであろうか。
北極海の守備範囲はシベリアなど北極圏の大陸を含み、雨の少ない地域ではあるが地球表面の1割位ある。
表層水はそのため塩度が低く、対流は起こらずかつ表面から氷って永久氷をなし、その上に雪が積もると
太陽光を反射し、ただでさえ高緯度斜め入射による面積あたりの太陽光入射フラックスを下げてしまう。
対流を阻止して、水の優れた太陽熱集蓄熱装置をソーラーポンドというが、北極海は、正に冷水を作る
超巨大逆ソーラーポンドなのである。ソーラーポンド機構は太陽エネルギー装置としては、原理的には
太陽電池などを遥かにしのぐ効率の装置であるが(6)、海洋大循環によって北極海から来ている利用
可能なエネルギーは全人類の使っているエネルギーの約400倍と見積もられる(7)。

しかし、エネルギー問題にはここではこれ以上触れない。北極海は、表層で0℃以下、深海で3℃程度で
ある。北極海底の冷塩水は、浅い北極海から深い大西洋へ流入するが、慣性能率の小さい極地帯から
大きい大西洋地域に入ると地球自転について行けず、アメリカ側の海盆に積もる。比重の大きな水が
積もるとその下の圧力が上がり、西高東低の圧力勾配が出来るとこれが自転の慣性力(コリオリの力、
転向力)と釣り合うことができて、流れは更に南下できる。遂には、赤道を越えて今度はアフリカ
西岸寄りに南下し、希望峰沖を東漸して南極周辺循環深海流と合流して、インド洋太平洋へ侵入する。

太平洋を北上した流れはアリューシャン沖で南西に向きを変え、少し、もと来た道とは違った進路で
大西洋へ戻り、北上して北極海に至る。この考えでは、赤道を越えて流れる南北の非対称は北極圏全体に
降る降水量が南極大陸に降る量よりも格段に多いことが基本的である。ただし、北極圏に降る降水量は
海洋大循環に関与する流量の供給元としては1割に満たないであろう。大部分は文通り循環である。
この2つの源流の混合については後でまた議論する。北大西洋の西側を南に流れる部分と東側を北に
流れる部分とで冷塩水の厚さが違うとすると、海底の圧力が西高東低となるが、この東西の圧力勾配を
コリオリ力と釣り合わせ、一方地球をほぼ一巡してもどる流線に沿った圧力勾配を循環流の速度と有効
厚みとの積のオーダーの渦粘性による粘性力と釣り合わせると、圧力の差は共通だから、大循環の流速
は地球自転速度とあとは冷海水の厚みや地球半径や大西洋の幅など幾何学的量で表される。計算すると、
大循環の時間尺度は千年のオーダーになる。これは観測と一致するから、この考え方は良さそうである。
一方、この計算から、北大西洋深さ4kmにわたる東西の(勾配がコリオリ力と釣り合うために要求される)
静水圧差を作る温度差を出すと、その値は0.1℃に満たない事になってしまう。詳しいことは知らないが、
本当はこの温度差はもっと大きく、東高西低の塩度の違いに大部分相殺されているので、計算上小さな
値が出たと考えられる。此所にいたって、塩度のことを無視した議論と塩度差を大循環の原因とし
北極海を無視した議論との融合を図らなければならない。即ち、大西洋北端と更には北極海内部に
おける温度と塩度の混合過程を議論する必要を生ずる。これは大規模な二重拡散対流の問題で気象や
海底地形とも結合した複雑な系で、専門家でないと手におえそうもない。しかし、この問題は原理的
には決定可能であるし、海洋大循環の地球環境との関わりには直接入ってこないと思われるので、
これ以上立ち入らない。地球環境としての問題は、最近Broecker(8)が指摘しているように、
海洋大循環が一つの安定したモードの働きであるか否かであって、例えばCO2の過剰排出が、
いくつかある海洋循環のモードのうちの別のモードへの切り替えの引鉄となり、それが氷期間
氷期の切り替えになるかもしれないことである。

Broeckerの議論は伝統的な気象による塩度の循環の議論を基にした正統的海洋学の現代版であるが、
ここでは北極海起源の海洋大循環モデルで考えてみたい。もし、温暖化が起こり、北極海の永久氷
で覆われている面積が何割か減少したとする。雪による反射能は減って太陽光が海水を暖める。
マントルからの地熱のフラックスが同じであるとすると、熱伝導が変わらないということで、
対流混合のある表層の下、水面下100m程度の表面温度が上がった分深海温度が上昇する。
その北極海水が大西洋に流れ込んで作る大西洋海底の東西圧力差が果たしてコリオリ力と釣り
合って赤道を越える大循環となるであろうか、それが問題である。

海洋大循環の時間尺度が千年程度であり、北極海の大循環流量に対する寄与が約1割とすると、
いずれにしても千年か1万年の間はほぼ現状と変わらない地球環境を保つであろう。しかし、
千年の間に太平洋深海温度は上昇し、貯えていたCO2を大気に放出し始める。もし、CO2の温室
効果が水蒸気に近くなると、これが又温暖化を引き起こし、その不安定は止まらず、恐らく
海洋大循環モードは死んで、南北対称的循環モードに移行するであろう。その結果が更なる
温暖化に向かうか一転して寒冷化に向かうか分からないが、変動の時間尺度は恐らく1万年の
オーダーであろう。
こうした変動は、人類が手を下さなくとも起こりうるのが地球環境という複雑系なのかもしれないが、
現代人が訳も分からずそのきっかけを作ってはいけない。即ち、人類の手で、地球環境破壊の可能性
を作ることは将来地球に生きるであろう生命のために許されないことである。
                          (“エネルギー環境第3原則”)

(1) 米本昌平、中央公論 平成10年1月号。
(2) W.Unno,Publ.Astron.Soc.Japan,14,153-163,1962;ibid.,15,405-411,1963.
(3)矢吹万寿,風と光合成,農文協,1990。
(4)福井英一郎・吉野正敏,気候環境学概論,東大出版,1979。
(5)M.G.Gross,Principles of Oceanogrataphy,Prentce
All,7th edd.,1995.
(6)W.Unno and M.Taga,Jpn.J.Appl.Phys.32,1329-1333,1993.
(7)海野和三郎,将来エネルギーと環境の物理学,日本物理学会誌,
51、727−733、1995。S.Broecker,Science,278,1582-1

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地球温暖化「非CO2論」の虚妄
                 
 海野和三郎 

桜井よし子さんだったか曾野綾子さんだったか忘れたが、世界有数の地球物理
学者赤祖父俊一さんの説を引用して、「地球温暖化はCO2ではない」という
議論を展開している。
桜井さんにしろ、曾野さんにしろ、日頃、中正の立派な評論を出しているので
、誤った議論をすると影響が大きいから、その誤りを指摘しておきたい。

赤祖父さんの論文は読んでいないので詳細は分からないが、桜井勝弘さんの「
CO2で地球温度は何度上がるか?」(改訂版)という文書を、友人が転送し
てくれた。
それによると、「氷河期(?)(1400〜1800)からの回復と地球の準周期変動
が大部分で、CO2増加による温室効果の影響は約1/6程度であろう」、と
いうことである。
中緯度の平均気温が500年前に0℃、現在15℃とすると、100年で3°C、1/6
 とすると、10年で0.5°CがCO2の人為増加の影響ということになる。しか
し、気温変動には知られているものだけでも、億年、万年、百年、22年、1
1年、2年、1年、1日、等の周期、準周期変動があるが、太陽黒点周期の2
2年(11年)以下の短周期変動より長い準周期変動の理論的説明は、太陽磁
場活動が太陽エネルギーを貯め込んで変調する効果以外は、余りよく分かって
いない。大隕石の衝突、全地球規模の山火事なども原因となり得るであろう。
第2の問題点は、水、H2Oや二酸化炭素、CO2などの温室効果と地球温暖
化との混同である。両者は関係はあるが、特に、水に関しては、両者は別物と
考えた方がよい。
第3の問題は、非線形モード(地球環境の非可逆進化)であるが、それを議論
できる知識は自分にはないので、数十年以上先の影響はある種の仮定にたった
議論以外は(恐らく誰にも?)できない。

桜井勝弘さんは、“もんじゅ”の炉心熱流力設計を担当された方で、詳細な解
析とともに、簡易モデルをつくり, グローバルな物理特性を理解し、修正して
いくという方法をとっていたという。そこで、地表温度の簡易モデルとして、
地表に入射する太陽エネルギーと全地表から大気外へ放射されるエネルギーと
をバランスさせて決まる温度と地表平均温度との差を水H2Oと二酸化炭素C
O2との温室効果による温暖化と解釈するモデルを考える。地表に入射する太
陽光強度は、大気外での強度(太陽定数)1.37kW/m2に(1−A)(A:反射
率、アルベド、通常0.3とする)を掛けた値を採用すると、太陽光を垂直に受
けて再放射する黒体輻射温度は90℃くらいであるが、太陽光を受ける地表面積
は全地表面積の4分の1なので、受けた太陽エネルギーを地表全体の面積で1
日以上保温して再放射すると黒体輻射温度は−18℃となる。これと平均気温1
5℃との差を水蒸気と二酸化炭素の分子数に比例させた温室効果と解釈するの
が桜井式簡易モデルで、その簡易モデルを更に最近の地球温暖化に当てはめて
、人為による二酸化炭素の増加が何年後には何度の温暖化になるかを予想する
ことが、桜井さんの筋書きのようである。
ここで、特に問題なのは、アルベド:Aという量の曖昧さもさることながら、
”地表が受けた太陽エネルギーを地表に一様な温度の放射として再放射する”
ことで、地表が熱の超伝導体として扱われていることである。
地表が受ける太陽エネルギーは、昼と夜、季節、緯度により桁違いで、これを
平均化する機構は存在しない。つまり、−18℃という値は殆ど意味のない数字
である。どうせ、保温の良い地表を考えるなら、いっそアルベド:A=0と置い
て、地球が受けた太陽定数を4倍の表面積で放射する温度を理論的地表平均温
度とする方がよい。
その温度は、約5℃となるから、世界の中緯度の平均温度約15℃との差10
°を水蒸気やCO2の温室効果によるとする考え方である。
しかし、もっと良い方法がある。それは、地表平均温度として、1000m以深の
深海温度3℃(276°K)を採用することである。3℃という温度は、地熱を海
面へ伝導するのに必要な北極海底温度で、海洋大循環が北極海を源流として、
北大西洋の東西海底の水温による圧力勾配と地球自転による転向力との釣り合
いで、北米大陸側の赤道を越えて南下するモデルで説明される。また、更にア
フリカ側を南下、喜望峰を超えて東漸、太平洋を北上、アリューシャン沖を南
下、日本列島沖、台湾・フィリピン・インドネシア沖を通過して喜望峰沖を西
に回りアフリカ沖を北上、表層流となって、アメリカ側赤道を越えて東漸、ヨ
ーロッパ沖を北上し、塩度を増して、グリーンランド沖を沈み込む大循環モデ
ルを考えると、1000m程度の乱流渦の渦粘性を仮定して、動径方向の圧力勾配
との釣り合いからも、海洋大循環周期の観測値約1500年が説明できる。
しかし、深海温度が一定している理由はそれだけではない。更に、重要なこと
は、海が持つ保温の良さである。直射太陽光の1割程度は、水深100m程度、“
てんぐさ”など赤い藻が生える深さまで届く。そのエネルギーは、夜分或いは
冬季、外が低温になると海面から外へ放出されるかというと、約3000年かから
ないと熱伝導で外へ出られない。
その理由は、海は“塩の指不安定性”といった(温度と温度の)二重拡散対流
不安定性が働いた億年の進化の結果、深い所ほど塩度が高く比重が高いので、
少々の温度勾配では対流が起こらない仕掛けになっており、遠赤外線を透さな
い水の中を分子衝突で温度を伝える熱伝導では100mを伝導するのに3000年もか
かるというわけなのである。
その間に、海流がならし、一様化するが、その代表が海洋大循環ということに
なる。地球温暖化の影響が北極海環境を変えると、その影響は約1000年で地球
全体の生態系に及び、千万年かけて元に戻るか、新たな進化を進むことになろ
う。

次に、問題なのは、水の影響であるが、遠赤外での水蒸気による温室効果もあ
るが、雲になり、霧や靄になり、地上に達する太陽光を散乱吸収する効果、雪
や氷となりアルベドを大にする寒冷化効果もあって、昼と夜でも地上温度に対
する作用が逆になり、或いはその地の温度によっても効果は変わる。地表にあ
る水の総量は海が地表の2/3を占め、陸上では森林や陸水、水田などが海と
似た役割をするから、水蒸気の温室効果は二酸化炭素より大きいからといって
も、地球温暖化に対する影響は第一近似では無視すべきである。

それでは、(1400年〜1800年)の寒冷期からの回復というもう一つの温暖化の
解釈をどう考えるべきか、と言うと、この寒冷期は太陽黒点のマウンダー極小
期を含む4つの極小期に相当し、日本では寛永から享保、天明、天保の飢饉の
時期であり、フランス革命もその頃の事であったらしいが、1950年には完全に
回復し、かなりレギュラーな11年周期変動になっている(日江井栄二郎、「
太陽」学士会会報2008-V)。太陽エネルギーの一部が、太陽磁場活動に転化
して11年周期や100年程度の変動として、表面に現れると考えると、太陽
黒点の消長と地球環境との相関は説明できる。
このところ、太陽黒点は極少期に近く、今年は黒点の姿が見えないというから
、北極海の氷やグリーンランドの氷河が融けているのは、CO2による温暖化か
アルベドの減少やカーボン・ハイドレートの湧出という二次効果によると考え
るべきであろう。黒点極少期の寒冷からの回復という温暖化の筋書きは今後ど
うなるのか、吉村宏和さんあたりに聞いてみるか、“ひので”の観測結果をも
とに常田佐久さんあたりに予報して貰うしかないが、今のところその筋書きは
除外して、水蒸気と二酸化炭素による温室効果、それも夜間だけに限って適用
したモデルを簡易モデルとするのが適当であろう。夜間に限る理由は、昼間は
地表近くは対流圏で、大気中の温度勾配は、ほぼ断熱温度勾配であり、遠赤外
放射に働く温室効果は殆ど影響ないからである。

 次に、温室効果の評価であるが、輻射平衡にある大気の温度成層は、地球大
気の場合、遠赤外域の平均吸収係数による光学的深さの関数として求まるので
、その平均吸収係数に対する吸収線の寄与の大きさが水蒸気や二酸化炭素の温
室効果である。
平均吸収係数は、各波長域の吸収係数をその波長域の(外向きの)輻射流量で
重みをつけた平均をとるので、強い吸収線を少数持つ分子よりも弱い吸収線を
多数持つ分子の方が平均吸収係数により大きく寄与する。また、強い吸収線を
持つ分子が増減しても殆ど温室効果に影響しないが、中程度以下の吸収線の分
子数の増減はそのまま温室効果に影響する。
地球大気の場合、水蒸気分子はその温室効果で確かに大気の平均気温を上昇さ
せているが、その上昇は一定しており、前記の二つの理由で、いわゆる温暖化
にはつながらない。
一方、CO2二酸化炭素は、遠赤外域に強弱多くの分子の振動・回転モードの吸
収線を持ち、分子数の増減は比例的とまでは行かなくとも、ほぼそのまま、温
暖化につながる。メタンハイドレートなどでは、吸収が飽和に達していないで
あろうから、温暖化で分子数が増えると、温暖化が更なる温暖化を呼ぶおそれ
がある。

 他方、水の影響としては、雲や氷雪としてアルベドへの影響があり、太陽磁
場の消長が地球環境に与える影響と共に重要であるが、その辺りは専門家の検
討に委ねたい。
かつて、松島訓さんの愛弟子であったジェイムス・ハンセンがA.レイシスと
共に吸収線の大気構造への影響を研究していた私の所へ武者修行に来ていたこ
とがあるが、彼らは今やIPCCの中心的存在であり、水や太陽磁場の影響な
ども含めて、CO2などによる地球温暖化の研究のリーダーとなっている。複
数の日本人女性の共著者がある彼らの論文を見たことがある。ジムが、宇宙飛
行士の毛利さんとテレビ対談をしていたのも見たことがある。関心のある方は
、インターネットで検索してみるとよい。

結論として、21世紀人類生存の危機を左右しかねない地球温暖化の今後10
年間の動向を決めているのは、人為による二酸化炭素の排出量であるとしてほ
ぼ間違いはない。ただ、それ以外の要因が加わる可能性もあり、特に、非線形
効果が少なからずあるので、10年より長い未来にわたっての予報は困難であ
る。温暖化の問題の有無に関わらず、石油などの化石燃料は未来のために温存
すべきで、現代人が浪費することは決して許されることではない。  
(2009/04/07−16、5/15改訂)

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海野先生、幕張メッセで講演・展示説明
             論文公開



第4回新エネルギー世界展示会

再生可能エネルギー世界フェア 

未来の実用技術を広く公開し、産学連携を推進します。
6月26日(金) 大学・研究機関による最新研究の成果発表を
ワークショップ会場にて行います。

特定非営利活動法人 東京自由大学
森と海と人の和の太陽エネルギー進化工学
発表者:海野 和三郎 氏