「緊急のエネルギー問題」を都知事選挙に見る 
   
       
             東京大学名誉教授    海野和三郎


石原慎太郎東京都知事は、「太陽の季節」の頃はあまり好きではなかったが、東日本大
震災後の都知事選挙とそれ以後の原発との関連で、彼が表明した「エネルギー問題にお
ける原発の意味」の見解は、何らの有効な具体案を提示したわけではないが、原発も否
定せず官僚の能力も否定せず持ち上げもせず、さすが作家の力量を示す、硬軟取り混ぜ
て見事な見識の表明であった。 

エネルギーは不変量だから、ヒトが勝手に作り出すことはできない。どこからか持って
こなくてはならない。億年かけて地球がためた化石燃料を100年で消費する今の文明
は健全とは言えない。其のツケが10年後にやってくる。所謂「石油ピーク」がこれで
ある。ヒト1人は、約1kWのエネルギー消費で生きていると言われている。基本的に
は、衣食住に要するエネルギーであるが、そのエネルギーの収支を扱う経済と、エネル
ギー収支のあり方を決めている文明と、エネルギーの分配をコントロールする政治との
三者に分類される。宗教などは、この分類からはみ出す部分があるが、ここでは、文明
の一部と考える。東日本大震災の緊急事態は、第一に、衣食住の安定を目指すことであ
るが、経済支援と政治支援とが緊急に必要であり、教育・交通・生産などの文明復興が
それに続くことになる。

しかし、エネルギー供給という人類生存の基本問題としては、震災の影響での電力不足
だけでなく、原発の復旧に数年を要する上に、10年20年後の石油ピーク以後のピン
チヒッター役を期待されていた原発の開発が間に合わなくなるし、原発廃止の声が高ま
ればその開発自体が不可能となる。

一方、石油ピーク後のエネルギー問題は、20年後の経済大恐慌や、50年後のエネル
ギー獲得を目的とした世界(核)戦争の悪夢の根源となっているもので、是が非でも、石
油火力発電より安く電力を供給でき、かつ世界の需要を満たす量のあるエネルギー源が
緊急に必要である。そのエネルギー源として、原子力が脱落したので、あとは太陽エネ
ルギーが本命である。

水力、風力、波浪、潮汐力などの自然エネルギーは、局地的に大いに利用すべきである
が、世界人口が20億であった過去はともかく100億近くなった現在、絶対量が足りな
い。核融合炉は未開発であるが事故の危険度は原発より遥かに大であると考えられる。
火山島地下1000mの地熱海洋発電は(3℃の冷却水と高圧による水の沸点上昇とで)大い
に期待できるが、開発には50年はかかるであろう。現在実用されている太陽エネルギー
装置として、太陽光発電パネルと太陽熱温水器とがあるが、共に固定装置であるため、
太陽を追尾していないための効率の悪さと、集光による仕事(例えば発電)効率の上昇を
利用していない欠点がある。

太陽光は、絶対温度で6000°の太陽表面(光で2.3秒の半径)から発する良質の黒体輻
射エネルギー(絶対温度Tの4乗に比例)で、地球までの距離(光で500秒)に広がると
強度は(2.3/500)2倍に下がり、それが所謂太陽定数(1.37kW/m2)であるが、地球大気に
よる減光を3割として、地上での太陽光強度は1kW/m2、対応する(絶対)温度は36
5K(90℃)となる。

太陽熱温水器の水温がそこまで上がらないのは太陽光の斜め入射と保温の不完全さによ
る。また、太陽光発電がその普及に補助金を必要としているのは、斜め入射や10%台の
発電効率のこともあるが、それより太陽電池パネルが高価で、その製作にエネルギーを
必要としているためである。つまり、現在の太陽光発電では、エネルギー需要を満たす
ことは不可能で、このままでは、20年後の経済大不況、50年後のエネルギー取り合
いの世界戦争が不可避となるであろう。これが、石原都知事の論説の背景にある。太陽
光を集光するとどうなるか。それが、これからの主題である。ただし、集光にあまり金
(エネルギー)をかけては元も子もなくなる。

平面鏡を折り紙細工式に張り合わせた7倍非結像集光鏡を極軸の周りに1日半回転する、
ヘリオスタット第1鏡、その真南の赤道と天頂の中間に4倍非結増集光する面積が第1
鏡の1/4程度の第2鏡でシーロスタット式にして、第1鏡の前に置いた固定のソーラー
ポットに太陽光を集光すると、朝夕の斜め入射や反射率が100%でない効果を入れても、
20倍程度の太陽光集光がポットの底板にできる。底板の上面は黒色でその下は熱電(ぺ
ルチエ)素子による(太陽光でない)太陽熱発電パネルである。前にも述べたが、輻射
のエネルギー強度と絶対温度の4乗が比例するから、太陽光をまともに受ける温度、絶
対温度365Kは、20倍集光で、絶対温度は2倍以上(20の4乗根)の730K以上、4
60℃程度になる、周囲が直射日光温度の90℃としても、周囲よりも370°高くな
る。第2鏡は、太陽周辺の空からの光も取り入れられるので、少し曇った空でも、10
0℃の沸騰水を短時間で得ることができるであろう。この装置の欠点は、天候に左右さ
れることであるが、電力や沸騰水を、’使う場所で作る’ことが可能な点が長所である。
離れ小島であろうと、ヒマラヤの山上であろうと電力と沸騰水を供給できる。

沸騰水で蒸気タービンを回して発電も可能で、石油火力発電に比べて格段に安く1kW
の電力を家庭規模(第1鏡の有効面積約3m2)で供給できる。東日本大震災による大ピ
ンチをチャンスにして、この簡単な20倍集光装置を20万円程度で造るのは日本の町工
場が最適であろうか。町工場が立ち上がり、日本の再建、引いてはエネルギーの取り合
いで起こる世界戦争を永遠に追放することができれば、これが、21世紀人類の進化と
いうものであろう。石原慎太郎知事、菅直人首相、以って如何と為す哉。