[きしむ日米]大統領初来日 首脳会談 識者に聞く 
       
          2009.11.14  東京朝刊 解説 13頁

日米同盟がきしむ中、オバマ米大統領が初来日し、鳩山首相と首脳会談を行った。
同盟の現状や将来を日米3人の識者に聞いた。
   

◆「弱さ」自覚し同盟活用を    ◇織田邦男氏 

 「対等な日米関係」を掲げる鳩山政権は、その理由として「日本は米国に依存し過ぎて
きた」と説明する。だが、その言葉には、依存せざるを得なかったという「自らの弱さに
対する自覚」が喪失している気がしてならない。

 かつて、中曽根首相は「身の丈に合った外交」と言い続けた。日本の身の丈を考えれば、
わが国は事実上、米国による「六つの傘」の下にある。核、攻撃力、情報、軍事技術、食
料とエネルギーであり、いずれも日本の安全保障にとって致命的なものばかりだ。

 情報一つを取っても、日本が衛星や通信、諜報(ちょうほう)活動などによって収集で
きる情報はわずかで、中国や北朝鮮に関する内容を含めて対米依存度は80%を超す。イ
ラクで続けてきた自衛隊の国際活動で痛感したが、資源の大半を委ねる中東に至っては、
情報は全く取れない。北朝鮮から核やミサイルで恫喝(どうかつ)されても国民がパニッ
クに陥らないのは、日米同盟があるからだ。悔しいけれど、こうした現実を直視した上で
対米関係は考えなければならない。

 鳩山政権には同盟の再定義の議論を、もう一度やってほしい。米軍再編の過程で、日米
は「同盟の必要性」と「役割分担」を巡って議論してきた。しかし、野党だった民主党は
蚊帳の外だった。もう一度議論するとなれば、米国は不満を募らせるだろう。それでも日
米両政府は、2005年に再定義した時と同じように、〈1〉日本の防衛〈2〉東アジア
の安定〈3〉グローバルな国際協力??という日米同盟の三つの重要な役割について、認識
を一にする必要がある。

 前回の議論で、日本は北朝鮮の核とミサイル、中国の軍拡を取り上げ、米国はテロを最
大の脅威とし、互いの懸念を取り払うために協力し合うことで合意した。いわゆる「ロー
ル・アンド・ミッション」(役割と任務)で、アフガニスタンの復興支援とテロとの戦い
は、そうした日米協力の両輪だったはずだ。鳩山政権が民生支援だけを主張すれば、日米
同盟の存在意義は確実に薄れるだろう。

 湾岸戦争で日本は130億ドルもの戦費を拠出した。だが、金だけ出して汗をかかない
日本は「小切手外交」の汚名を着る。当時、ワシントンの防衛駐在官(自衛官)は、国防
総省高官のアポが取れず、事実上、ペンタゴンへの出入りが許されなかった。直後に訪米
した宮沢首相は「日米関係は50年前に逆戻りした」と嘆いたが、同盟を二度と漂流させ
てはならない。

 米国は今、テロとの戦いで疲弊し、国力は衰え始めている。だからこそ米国は同盟の機
能強化を求めている。2年前、米国は超党派による「新アーミテージ・リポート」を公表
した。それは、台頭する中国を民主主義や法の支配が拡大する方向に導くため、日本の力
を借りたいという内容であり、米国にとって日米同盟はアジア政策の要石であり、対日政
策は変わらないというメッセージだった。

 それを理解すれば、鳩山政権が進むべきは、弱さを自覚し、国益を追求するために、ど
のように日米同盟を活用するのか、という道だろう。「親米」でも「反米」でも「嫌米」
でもない、「活米」への知恵が求められている。(聞き手・編集委員 勝股秀通) 

 ◇ おりた・くにお 元空将。航空自衛隊航空支援集団司令官としてイラク輸送活動 
 を指揮。今年3月に退官。57歳。 



 ◆「対等」より「緊密」さが必要 ◇北岡伸一氏

 鳩山政権が「対等な日米関係」を目指すと言うなら、そういう関係に向かってどのよう
な方策があるのか念頭に置いて議論すべきだが、それができていない。 中国は軍備を増
強し、北朝鮮は核開発を続けている。日本には自前の攻撃力がなく、米国との関係は盤石
であることが基本だ。大事なことは、日本の安全をどう守るかだ。そのためには「対等」
は二次的であり、「緊密」な日米関係が最も必要となる。「対等」だけでは弱体な日米関
係になりかねない。

 世界の中で、日本は依然として大国だ。地域の安全のためにも、アジア諸国と関係を深
めなければいけないが、日本にとって戦略的に最も重要な国は米国だと認識すべきだ。鳩
山政権は圧倒的な支持を受けて誕生した。国民の貴重な負託に政策の優先順位をつけて応
えてほしい。優先順位の中で、日米関係は相当高位にある。

 沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題では、岡田外相が米軍嘉手納基地への統合案を主張
する一方、北沢防衛相が日米合意に基づく米軍キャンプ・シュワブ沿岸部への移設計画を
容認するなど、双方の意見が食い違っている。最終的な決定者は鳩山首相だが、その首相
が「県外、国外」などと、閣僚と同じレベルで議論に参加するのはいかがなものか。

 気になるのは、首相発言の軽さだ。「慎重に検討している」と言えば、後でいろいろな
選択肢が広がり、物事をうまく進めることができるのに、軽い発言でその可能性が消えて
いる。 1969年、日米が「核抜き本土並み」の沖縄返還で合意するまでの過程で、当
時の佐藤栄作首相はずっと「未定」「検討中」と言い続け、返還を成功させた。そういう
知恵も見習ってほしい。首相の発言は本来、後で簡単に訂正できないものなのだ。首相が
このまま決定者の役割を放棄すれば、普天間飛行場の移設がなくなり、結局、住民への危
険性だけが残る。沖縄の負担は減らないままだ。

 すでに日米両政府の間で大体議論が煮詰まっているのだから、「日本の安全のため、ア
ジアの安定のために速やかに現行計画で実施する」とオバマ大統領に言ってほしかった。

 この問題は、年内に決着させるべきだ。10年以上も解決していない中で、やっと解決
の糸口が見え始めていた時に、また後戻りするようなことがあれば、交渉にあたる官僚の
間にも疲労感や脱力感が出てくる。これは問題解決の阻害要因にもなりかねない。

 各国の首脳が来日する時は、通常、必ず会談を成功させなければいけない。同盟関係に
ある米国であるならばなおさらだ。今回の首脳会談で、クリーンエネルギーや気候変動、
核軍縮問題など、世界規模の課題に日米が連携して積極的に取り組むことで合意を見たこ
とは高く評価すべきだろう。

 しかし、日本やアジアの安定に直結する普天間移設問題が決着に至らないなど、幾つか
の目標が実現できなかったことは、予想されていたとはいえ物足りなかった。移設問題の
先送りが日米関係の今後に傷を残さないよう、特に普天間問題は年内の解決を目指し、両
国は努力をしてほしい。(聞き手・政治部 志磨力)    
 
◇ きたおか・しんいち 東大教授。日本政治外交史。2004年?06年に国連大使。 
  著書に「自民党」など。61歳。


「普天間」先送り両国に害  ◇キャロリン・レディ氏 

 日米の同盟関係は緊迫した時を迎えている。オバマ政権も、米国の多くの専門家や学者
も、日米間の亀裂は大ごとではないかのように話している。しかし、状況は深刻だと思う。

 オバマ政権は来日直前から、両国の亀裂を取り繕う危機管理態勢に入った。首脳会談が
笑顔と握手の写真を撮れる場になるよう動き始めた。そして予想通り、記者会見は新味が
なかった。両首脳とも普天間飛行場移設の問題に自ら進んで触れることはなかった。 日
米が連携を確認した温暖化防止や核軍縮など地球規模の問題はもちろん大切だが、オバマ
大統領は普天間など両国間の安全保障にかかわる問題がいかに重要かについて、真剣で厳
しいメッセージを鳩山首相に伝える機会にすべきだった。大統領こそ、それができる立場
にいるのだから。普天間問題を先送りすることは日本のためにも米国のためにもならない。

 オバマ政権は普天間にせよ、東アジア共同体にせよ、鳩山政権が何を目指しているのか、
まだ測りかねていると思う。

 私自身も、鳩山政権の外交、安全保障政策がどこに向かおうとしているのかよくわから
ない。

 「友愛外交」は立派なキャッチフレーズだ。だれでも兄弟姉妹のような関係を築きたい
だろう。しかし、どの国も自国の利益のために動いている。それが世界の現実、安全保障
をめぐる実態なのだ。とくに東アジアの場合はそうだ。 インド洋での給油活動の停止は、
海上自衛隊にとり、他国の部隊と連携して行動する経験を積む機会を奪われることを意味
する。 岡田外相は「核の先制不使用」を議論したがっているが、米国が提供している
「核の傘」が日本や北大西洋条約機構(NATO)加盟国の安全保障に持つ意味を十分に
理解したうえで問題を提起しているようには思えない。様々な問題をはらむ「パンドラの
箱」を開けてしまうことになりかねない。

 鳩山政権は「対等な日米関係」を掲げている。自立し、力強い役割を果たす日本を目指
している。私はそれらを支持する。しかし、普天間や給油の問題を見ると、現実に進もう
としている方向は違うように思える。そうなれば日本は従来とは違う様々な依存関係を持
つことになるだろう。日米関係が弱体化する一方で、軍事的にも経済的にも急速に台頭す
る中国への依存が高まりかねない。鳩山首相はそれで日本の安全が確保できると思ってい
るのだろうか。

 鳩山政権が同盟弱体化への動きを進めれば、米国の政策立案者の多くは同盟立て直しの
優先度を下げ、日米関係は他の懸案より後回しにされていきかねない。そうした事態は簡
単に起こりうる。私はそれを最も恐れている。

 日米同盟は米国だけでなく、日本や東アジア全体の安全保障にとっても死活的な重要性
を持つと思う。日米両国は基本的な価値を共有し、北朝鮮など共通の脅威にさらされてい
る。普天間問題を協議するために設置される閣僚級の作業部会が同盟関係の強化につなが
る場になることを期待する。(聞き手・編集委員 大塚隆一)     

◇ 防衛研究所客員研究員。米ブッシュ前政権の国家安全保障会議で核不拡散や北朝鮮問
  題を担当。33歳。 

 

2009.01.09 「イラク後」の課題 
                     専門家3氏に聞く 東京朝刊 解説 12頁

 ◇揺れる同盟

 
自衛隊のイラク活動は終わったが、直面するソマリア沖の海賊対策、アフガニスタン支援
でかじ取りを誤れば、日米同盟の土台は大きく揺らぎかねない。「イラク後」の課題は何か、
日米の専門家に聞いた。
〈関連記事2面〉 

◇織田邦男氏 ◆派遣に国民の支持不可欠

 カンボジアPKO(国連平和維持活動)から16年、自衛隊は危険が伴う地域で軍事組織
にしかできない任務をこなし、多国籍軍の中で“実技試験”に合格した。5年のイラク派遣
で、自衛隊から国際協力活動の若葉マークが外れたと思う。諸外国が常識だと考えるレベル
の任務は、自信を持ってできるようになった。だが、たくさんの課題も残されたままだ。

 その一つは、カンボジア派遣当時から、自衛隊が海外で戦闘に巻き込まれる恐れがあると
いう「巻き込まれ論」が幅をきかせ、自衛隊を派遣する場所は「安全だ」という議論が続い
てきたことだ。

 「非戦闘地域」とはいえ、イラクでは陸自も空自も我が身に直接危険が降りかかるような
状況だった。現実の姿を受け止め、安全だから派遣するという議論は、修正していかなけれ
ばならない。

 もう一つは、自衛隊が安全ではない所に行くことに対し、国論が一致して隊員を支えなけ
れば、日本の国際協力は、破綻(はたん)しかねないということだ。 

 米大統領選でオバマ氏は、イラク戦争に異を唱える一方で、「兵士に責任はない。無事の
帰還を祈る」と言い続け、世論はそれを支持した。国内ではそれとは逆に、部隊がイラクに
赴く度に、駐屯地や基地、隊員やその家族が暮らす官舎に反対派が押しかけ、派遣反対のシュ
プレヒコールを浴びせ続けた。隊員は決して、行きたくて行っているわけではない。何のた
めに国際協力活動に自衛隊を派遣するのか、安全保障政策の中で、その位置づけをはっきり
しなければいけないと思う。

 オバマ氏は「世界を破壊しようとしている者たちへ、我々はお前たちを打ち負かす」と演
説したように、彼のアフガニスタンへの思い入れは強い。テロとの戦いを完遂するために同
盟国の日本には貢献策を求めてくるだろう。

 空自は若葉マークを外す試験に合格した以上、首都カブールへの輸送などを求められるこ
とが予想される。イラクでの活動に比べ、それほど難しい任務ではないと思う。ただし、イ
ラクと同じC130輸送機の部隊が担うだけに、隊員たちの心の問題がある。

 日本がアフガンでテロとの戦いに参加するのであれば、政府はその目的と意義をしっかり
と語り、国民がそれを支持してくれるのであればいい。しかし、そうでなければ、隊員たち
の中に、「またか」という思いの連鎖が生まれることが心配だ。

 かつて駐日米大使のアマコスト氏は「同盟はガーデニングだ。常に手を入れていなければ
荒廃してしまう」と語った。イラクで一緒に汗したように、同盟の連帯感を維持するため、
政府が「行け」と言えば、自衛隊は行かなければならない。だからこそ、国民の支持と理解
が不可欠なのだ。

 イラクでは、情報から緊急時の救援態勢まで多くを米国に依存した。アフガンでも作戦を
しようと思えば米国に頼るしかない。自分たちの弱さをきちんと自覚することが大切で、米
国を利用する功利主義的な発想も必要だろう。             
(聞き手・編集委員 勝股秀通)  

◇おりた・くにお 航空自衛隊航空支援集団司令官(空将)。防大卒。航空幕僚監部防衛部
長など歴任。2006年からイラク輸送活動の指揮を執る。56歳。 


 ◇リチャード・アーミテージ氏 ◆何をしたいのか、米に示せ

 日本政府が、陸上自衛隊を復興支援のためにイラク・サマワに派遣し、航空自衛隊をクウェー
トからイラクへの空輸活動に従事させたことを、非常に誇らしく思う。この時代の最も困難
な仕事に参加したことは、日本にとって極めて重要で、自衛隊と日本国民の評価を高めた。
日米間でも、米国は自衛隊の仕事ぶりに対する尊敬の念を強めたし、自衛隊は、米国が世界
中できつく、汚く、危険な仕事を引き受けていることに対する敬意を強めたと思う。

 米国はアフガニスタンにおいても、日本にできるだけの支援をしてもらいたいと望んでい
る。海上自衛隊によるインド洋の給油活動は、米国だけでなく、パキスタンやドイツなど関
係するすべての国に役立っており、非常に感謝しているが、CH47輸送ヘリやC130輸
送機による本土での支援が必要だ。日本はイラクで十分な支援を行う能力があることを示し
た。アフガンでも可能なはずだ。

 オバマ政権が発足しようとする今の時点での日本へのアドバイスは、日本が米国に来て
「何ができないか」を言うのではなく、国内で「何をしたいのか」を決め、その決断を米国
に示すべきだということだ。日本はアフガン本土に人を派遣する「ブーツ・オン・ザ・グラ
ウンド」を考えてほしい。

 しかし、これには軍靴だけでなく医師、看護師、建設作業員、教師、警察官など様々な種
類のブーツがあることを指摘したい。日本は、金銭的な負担や政府開発援助(ODA)を増
やさなければいけないが、これらは日本が決断できる多くのうちの一部に過ぎない。
 日本にはこれまでのような消極性ではなく、積極性を発揮してもらいたい。

 集団的自衛権の行使を禁じている憲法9条が、自衛隊を活用した国際貢献の障害となって
いることは明らかだ。ただ9条の下でも、日本は何度か政治的意志を示し折り合いをつけて
きた。カンボジアに警察官を派遣し、ゴラン高原やサマワ、インド洋に軍事力を持つ部隊を
派遣することができた。

 しかしこの1年余りで、日本では3人の首相が就任し、政府がマヒ状態にある。国として
の意思決定が非常に困難になっていることが問題だ。自民党は問題を抱えているが、民主党
が選挙で自民党を破るのに十分な力があるかどうかも不確かだ。この問題は政治システムが
再編されるまでの数年間、続くだろう。だが、国際情勢はそれまで日本を待ってはくれない。

 日本がアフガン本土での(自衛隊による)支援を行わないとしても、日米同盟が終わるわ
けではない。だが、日本が今年から2年間、活動しようとしている国連安全保障理事会に席
を持つ国としてふさわしくないとみなされるだろう。
 来年は日米安保条約の改定から50周年にあたる。日米間では、1996年に安保共同宣
言が交わされて以降、明確な共同宣言が出されていない。同盟を強めるための取り組みを改
めて論じる理想的な機会であり、新たな共同宣言が作成されることを強く望む。
(聞き手・ワシントン 小川聡) 

 ◇リチャード・アーミテージ 元米国務副長官。現在は「アーミテージ・インタ
  ーナショナル」代表。米海軍士官学校卒。米の対日政策に強い影響力を誇る。63歳。

  
 ◇北岡伸一氏  ◆ソマリア沖に海自艦を

 自衛隊のイラク活動は、復興支援それ自体については、さほど大きな役割を果たしたわけ
ではないが、米国が困っている時に手を貸し、日米同盟を一定期間、強固に維持するという
役割を果たした。自衛隊は秩序正しい行動をして国際社会から信頼を勝ち得た。予測できな
い事態に対応する能力を高める上で貴重な経験となった。

 しかし、日本のPKO(国連平和維持活動)はひどい状態だ。参加要員は昨年11月末現
在、38人で世界79位。世界全体(約9万人)の0・04%に過ぎない。憲法は前文で
「国際社会において、名誉ある地位を占めたい」、「自国のことのみに専念して他国を無視
してはならない」とうたっている。積極的平和主義の観点に立てば、1%程度は貢献すべき
ではないか。かつて、カンボジアPKOには数百人を派遣した。一番役に立つのは陸自の施
設部隊だ。道路や橋の補修も立派な貢献だ。例えば、アフリカの南スーダンに施設部隊を出
せば評価されると思う。

 国際協力活動が低調な理由の一つは、法制度だ。憲法9条1項は国際紛争を解決する手段
としての武力行使を禁じているが、国際法の発展の経緯や憲法の成立過程を見ても、日本と
他国との紛争を武力で解決しないという意味だ。国連の枠組みで他国の紛争の解決を手伝う
ことに当てはめるのは、憲法解釈が間違っている。他国部隊が襲われた際に防護する「駆け
つけ警護」や、任務達成のための武器使用は認めるべきだ。

 もう一つは首相のリーダーシップの問題だ。消極的なのは内閣法制局と自衛隊、公明党で、
内輪である彼らを説得できないことが問題だ。法制局は厳格な法解釈を維持したいと思い、
自衛隊は完全な法的基盤がほしいと言う。国益のために何が必要かを考え、それに応じて柔
軟な解釈や運用をしていくことが必要ではないか。「紛争当事者間の停戦合意」などPKO
参加5原則は、国連の運用に合わせて柔軟に解釈すべきだ。

 海自をソマリア沖の海賊対策に派遣すべきだ。海洋国家の日本はシーレーン(海上交通路)
に非常に依拠している。その安全を確保するため、国連は決議を採択して正当性を付与して
いる。法律は作った方が良いが、今でも自衛隊法の海上警備行動で商船を護衛することはで
きる。
 アフガニスタンの支援についても、空自の輸送部隊や陸自の施設部隊が活躍できる余地は
ある。日本で国際会議を開き、テロとの戦いや復興支援などを議論し、世界全体で取り組む
ようにすべきだ。

 日本が迅速に国際協力活動を実施するために、自衛隊を派遣する要件などを定めた恒久法
(一般法)が必要だ。「こういう活動に参加することができる」という枠組みを作り、実際
に参加するかどうかは、政治がメリット、デメリットを総合的に判断して決める。

 混乱した地域はテロの温床になる。自立できない地域の平和構築に国際社会が貢献すべき
だ。今年末に改定される防衛計画の大綱では、国際協力活動は主要国である日本の責任だと
書き込むべきだ。(聞き手・政治部 中山詳三)
 
 ◇きたおか・しんいち 東大教授。専門は日本政治外交史。日中歴史共同研究委員会日本
        側座長。2006年9月まで約2年半、国連次席大使を務めた。60歳。