10月7日夜:財団法人:人間自然科学研究所での座談会

怨念を昇華に導き、共生社会が生まれる平和モデル地域を目指して

   構想力を競う時代 中海圏の歴史的使命


 研究所理事長兼小松電機産業社長小松昭夫氏のセットによる座談会が開かれた。
事前に相談もなくセットされたため少し面食らったが、有意義な交流ができたと思っている。
研究所側の発言を基に、次の三点について考え方を述べた。それは、時間が制約されていた
午前の国際会議(NEASE―NET第二回フォーラム)での発言を補うものでもあった。

1 「和譲」と「和諧」について。先ず、小松社長が出雲大社の「和譲」の精神と中国の言う
「和諧」精神とには共通点があるのでは言われたが、胡錦濤国家主席が打ち出した「和諧社会」と
「和諧世界」について、私なりの説明を加えたい。

 中国共産党はマルクス主義を立党の基礎としている。毛沢東は、マルクス主義は、つまるところ
「闘争の哲学」だと言った。それが階級闘争論の土台となっていて、日本の侵略と戦い、蒋介石国民党
と戦い、文化大革命を起こした。それは、前二者については基本的に正しかったが、建設後も階級闘争論を推進し、文化大革命を起こしたのは間違っていた。その教訓を踏まえて、ケ小平は経済建設優先論を説き、改革開放を推進した。そして胡錦濤は更に和諧社会建設を提起し、「和諧の哲学」がマルクス主義に合致するとした。正に180度の理論的大転換を行ったのである。
 市場原理の導入によって、格差の拡大が顕著となり、当然、さまざまな矛盾が噴出することとなった。それを闘争ではなく、和諧の精神で、つまり調和の取れた方法で解決しようというのである。それを更に対外関係にも応用し、和諧世界論を説くに至った。国際的紛争や矛盾を、力ではなく、対話と協議の方法で、みなが納得できる解決策を図ろうというのである。
 確かに、和を尊びて譲る精神を持とうということと、和を尊びて調和を図ろうということには、共通点がある。

2 グローバルスタンダードについて。堀内好浩教授がアメリカは1000年先のスタンダードを考えていると話された。確かに米国は戦略的国家である。しかし、1000年先の戦略を持つとは考えにくい。事実、米国の覇権的地位は100年も持たないであろう。国連を土台とした強力な世界組織が取って代わるだろうからである。
現在、米国は超大国として世界に君臨し、アメリカンスタンダード世界に広めている。それは技術的スタンダードと制度的スタンダードの両方が含まれる。この制度面のアメリカンスタンダードがグローバルスタンダードと見なされているのである。しかも、アメリカを始めとする先進国によって世界に押し付けられているが、これは問題だ。
 アメリカンスタンダードは市場万能論的で、弱国や弱者に不利な仕組みである。人類の平和と繁栄のためには、先進国も発展途上国も共に利益を享受できる新しい仕組みを作る必要がある。
 ここ10年、日本も中国もアメリカ新自由主義の影響を受け、格差拡大など共通の問題に直面し、それへの反省を行われている。そして政府の役割と市場原理を結びつけた東アジア方式が省みられつつある。戦後日本は一国範囲内での「政府の役割+市場原理」の仕組みを作り、東南アジア諸国や中国、ベトナムもそれを学んだ。その結果、目覚しい経済的発展を遂げた。しかし、グローバル化が急速に進んでいる当今においては、一国範囲内でのこのような仕組みは成り立たなくなっている。国際化、高度化が求められる。東アジア範囲内で、政府に代わる国際協力機関を作り、それの主導の下で市場原理が働くという仕組みを作るべきだ。即ち国際的東アジアモデルである。それが成功すれば、エイシアンスタンダードと国際的に評されるであろう。
 東アジアモデル構築によって、東アジアにおいて国家間の二極分化は避けられ、先進国と発展途上国との格差は縮小に向かうであろう。エイシアンスタンダードが国際的に評価されるようになれば、それがアメリカンスタンダードに代わってグローあるスタンダードになる。そのためには、日中間の協力が不可欠だ。

3 日本の使命と役割について。戦後日本は、平和憲法の下、平和立国の道を歩んだ。昨年10月、安倍首相が訪中し、共同プレスコミュニケを発表したが、その中に中国は日本の歩んだ平和の道を評価するという文言が書き込まれた。これは今後日本が国際舞台で平和外交を推進する上で、たいへん重要な意義のあることだ。日本は戦後、如何なる戦争にも巻き込まれず、経済建設や人道支援の面で発展途上国に貢献した。そのため、日本のソフトパワーは世界のトップクラスにある。中国と韓国を除く世界各国において、日本に対する好感度は米国や中国をはるかに上回る。これは日本にとって貴重な財産である。ここ10年、日本が右傾化する中で、憲法改正、軍事力強化の声が聞かれるが、もしそれが現実化すれば、日本にとって大きなマイナスとなるであろう。
 日本は戦後60年の経験を活かして、引き続き経済的技術的援助を中心に国際貢献をすることが望ましい。その場合、中国との提携が不可欠となる。というのは、台頭しつつある中国の経済力はますます強まるのに対し、日本の経済力と存在感は相対的に低下せざるを得ないからである。過去30年間の改革開放政策の中で、中国は多くの面で日本の支援を得た。今後一定期間、中国は引き続き環境技術、省エネ技術など多くの分野で日本の協力を必要とする。このチャンスを逃さず中国との提携を強化し、それが末永く続くように努力すべきである。もしこのチャンスを逃がして、時間を空しく過ごせば、中国の日本への関心と必要度は弱まり、日本にとって大きなマイナスとなろう。日本の相対的な力が強いうちに中国を「巻き込む」ということである。それに成功すれば、日本の優位性は長期にわたって保たれていこう。

小松氏は私の先輩肖向前氏及び友人張可喜氏(現在、日中科学技術文化センター北京事務所代表)と親交がある由、これは今後の協力関係をつくる上で極めて有利な条件を提供する。日中科学技術文化センター及び日中関係研究所と人間自然科学研究所との交流を深め、日中友好関係の発展に共に寄与したい。
              2007年10月8日

北東アジア研究交流ネットワーク(NEASE-Net)第二回フォーラム

発言要旨

       中国社会科学院世界経済政治研究所研究員(教授)  凌星光

1)NEASENetを再認識するに至った。ロシア通商代表部副主席ナボーコフ氏、韓国東北アジア知識人連帯(NAISKorea)代表、若きモンゴル大使ジグジッド氏の流暢な日本語での発言を聞いた。東北大学北東アジア研究所はロシアと深い関係をもつなど、日本国内諸団体のもつ素晴らしい海外コネと活躍ぶりを知った。

2)自分は半分、中国を代表できる。中国社会科学院世界経済政治研究所研究員(教授)で、二ヶ月に一回帰国し意見交換している。中国ではすでにリタイアしたが、実際には現役に劣らない仕事をしている。最近は日中関係改善に力点をおいたため、東アジアの研究は疎かになっているが、一応フオローはしている。

 

(毛利和子先生の基調講演関連についてのコメント――毛利先生の「現代東アジアのアジア性」に基本的に賛成。)

1「現代アジア学」についての二つの視点。純学問には国境も地域性もなく、普遍性がある。理念的にはアジア経済学、アジア社会主義とかヨーロッパ経済学、ヨーロッパ社会主義というものはない。但し、地域的特性を研究する「地域学」は存在し、現実的にはアジア経済学、アジア社会主義が成り立ち、現代アジア学も存在し得る。ヨーロッパ(価値観)中心の政治経済学からアジア価値観を取り入れた政治経済学も成り立つ。

2 主権を絶対視するウェストファリア秩序から脱皮すべきである。東アジア新地域主義はポスト・ウェストファリアを求めるべきで、ネオ・ウェストファリア(毛利先生提起)を求めるべきではない。中国やインドが国家主権論からなかなか抜け出せないために、ポストでなくネオにしたと思われるが、それは半植民地、植民地を経験したためで、抜け出せないのは一時的である。脱国家論の面で、アジアがヨーロッパを追い越す可能性(アパルトヘイト、白人主義の克服などで)が十分にある。

3 東アジアモデルを確立すべきだ。東アジアモデルの特徴は政府(公共性の代表としての)の役割と市場原理の結合である。東アジア新地域主義にはこれが含まれるべきだ。日本式モデルは一国範囲内での政府と市場の結合であった。今求められているのは、国際化された政府と市場の結合、即ち国際協力機構と市場原理の結合を図ることである。日中韓三カ国はこの面で協力すべきだ。

4 市場アイデンティティーは東アジアになじまない。毛利先生は、地域化は無意識的、地域主義は意識的といったが、市場アイデンティティー下で無意識の地域化は進むが、それは意識的な地域主義ではない。東アジア新地域主義という以上、意識的なアイデンティティーを提起すべきだ。例えば「和を以って貴しとなす」「和諧社会」「和諧世界」などは東アジア的アイデンティティーである。(毛利先生が第4点で指摘した「異なった価値観への包容力、寛容性」などもこれに属する。)

5 各国の国家利益戦略にどう対応したらよいか。地域主義の目標――東アジア共同体の形成と現実的国家の利益擁護との関係を有機的に結びつける必要性がある。即ち各国の国家戦略を地域主義目標に導いていくのである。自国の狭隘なナショナリズムを克服し、相手国グローバリスト、リージョナリストの境遇に配慮することが不可欠で、各国の知識人連帯が必要である。

6 中国の東アジア共同体への関心を如何に高めるか。ここ数年、著しく低下している。起因は日本がASEAN10+3+3案を提起し、価値観外交を提起したからだ。渡辺利夫氏がASEAN10+3は中国がアジアでの覇権を確立する場と論断した。こういった論調に対し、東アジア共同体ができなくても、中国の発展は何の影響も受けない、中国はASEANを配慮して積極的支持を示したに過ぎない、という考え方が台頭した。現状が続けば、10年後には更に低下する。平和的環境を必要とする今こそ、積極的に中国に働きかけるべきだ。

7 中国の大国主義台頭をどう防ぐか。毛沢東は大国主義に反対しながら、大国主義の間違いを犯した。まだ中国が日本や韓国に期待する面があるうちに(例えば、現在は環境問題)、東アジア共同体の枠組みを作ることである。これが中国の国民を豊かにし、幸せをもたらす。中国のナショナリストは大国主義に陥りやすい。それを封じ込めるための国際的連帯が必要だ。

8 アジア通貨創出への積極性急低下をどう防ぐか。日本経済新聞「経済教室」掲載の筆者1998年論文は中国でも注目され、胡錦濤副主席(当時)がハノイでの国際会議で通貨協力の提言をするに至った。その後、日本の通貨専門家は積極的であったが、日本政府は消極的でどうしようもなかった。中国では人民元中心のアジア通貨圏構想が台頭しだした。次の通貨危機を避けるために、福田政権はアジア通貨協力に積極的姿勢をとることが望ましい。

9 日本と中国の指導権争いをどう防ぐか。韓国やASEANが主導的役割を果たすことである。1994年にARFASEAN地域フォーラム)ができた際、筆者は信濃毎日新聞に一文を寄せ、日本と中国は黒子に徹し、ASEANに表舞台で活躍させよと主張した。また2000年「国際経済学会」で、韓国、ASEANに主導的役割を果たさせるべきと主張し、多くの賛同得た。朱鎔基首相がASEAN+1とASEAN+3の会議で、ASEANの主導的役割を支持・尊重すると言明したことは心強い。(毛利先生指摘の第6点、李榮善教授「日中韓FTAの締結」に関連して。) 

10 日本の外交戦略を早期に見直すべきではないか(「外交戦略不在」の克服)。中国の台頭と米中関係の改善と密接化(関与政策が主となり、世界的問題での協調の可能性が出てきた)によって、日本の戦略的空間は狭まっていく趨勢にある。対米対中自主外交確立によって、はじめて日本のソフトパワーは強化され、世界的外交が展開できるようになる。常任理事国入りも決して不可能ではない。日本有識者の努力が期待される。

11 朝鮮に対して漸進的変化を促す。米国、日本の「圧力と対話」に対し、韓国は「協議と支援」のコンセプトを提示した。これは中国の姿勢と一致する。北朝鮮の三つのシナリオ、1)金正日政権下の漸進的改革開放化、2)労働党体制下での漸進的改革開放化、3)労働党体制崩壊の混乱を経て改革開放化で、最善の選択は第一、次が第二、第三は絶対に避けなくてはならない。とりわけ、中国と韓国は受け入れられない。

2007107