目 次
1 人間の責任に関する世界宣言

  1) インターアクション・カウンシル
  2 )世界宗教指導者と政治指導者との会議
  3) 倫理問題への本格的取り組み
  4) 人権宣言と責任宣言
  5) 責任宣言の概要とその結末

2 責任宣言その後のフォローアップ

 1) 世界宗教指導者との第4回会議ジャカルタ 
 2) われわれは子供たちへの責任を果たしているか東京会議
 3) 国際シンポジウムわれわれは次世代への責任をはたしているか

3 われわれは子供たちへの責任をはたしているか
      第22回OB サミット・ザルツブルグ総会

1 )正当化されうる軍事介入      
2) 22回OB サミット・ザルツブルグ総会
3 )普遍的倫理基準に向けての潮流  
 4 )結語


福田元首相「もったいない」運動の勧め
              平成7年1月7日、朝日新聞 論壇


OBサミット専門家会合 未来の世代の人権を認める 2005/04/12
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 去る3月30日より4月2日まで米国サン・ノゼのサンタ・クララ大学で、OBサミット専門家会合が開催されました。

 OBサミットは福田赳夫氏が首相引退後に提唱し、全世界的会合となったもので、毎年、全世界の大統領・
首相経験者など約30名が集まり、本音の議論を行う場となっています。ジミー・カーター、クリントン、ゴルバチョフ、
ミッテラン、ネルソン・マンデラ氏らも会員に名を連ねていました。いま日本からは宮沢喜一元首相がメンバーと
なっています。

 毎年一回総会が開催されます。それに先立ち専門家会合が開かれて、総会への議長報告が準備されます。
今年は22年目、6月に総会が予定されていますが、毎年、世界的視野に立った提言が出されております。

 今回の専門家会議では、「核軍縮と小型武器」及び「テロ時代の人権と人間の責任」の2つのテーマが
選ばれました。フレーザー元オーストラリア首相が議長を務め、マジャリ元ヨルダン首相、マクナマラ元米国防長官
をはじめ、約30人の専門家が会合に出席しました。

 日本からは、兵藤長雄東京経済大学教授(元外務省欧亜局長、ベルギー大使)、猪口邦子上智大学教授
(前軍縮代表部大使)、そして私の3名が参加しました。

 今回の会議は大変有意義なものでした。特に「人間の責任」に関し、議長報告の中で“Human rights are the
 possession of all people including future generations”(人権は未来の世代を含むすべての人の所有物である)と、
未来の世代への配慮が明記されたことは大変意義深いことです。

 しかし核軍縮に関しては、核拡散が原子力の平和的使用(その関連施設・技術等)によりもたらされているにもかかわらず、
OBサミットにおいてもこの事実の指摘は「タブー視」されていることが浮き彫りになりました。今回明らかになったこの事実は、
今後に大きな問題を残しました。私の言う「日本病」が「世界病」でもあることが確認されたのです。

 今回の会合の成果ならびに感想を、以下にご報告致します。

 1.核軍縮と小型武器貿易

 (1)核拡散が原子力の平和的使用により現実化しているとの私の指摘に、会場内で反論する人はおらず一同耳を傾けて
くれましたが、議長のフレーザー氏は「議題になじまない」という理由により、議長報告書の中で“原子力”にいっさい言及
しませんでした。「核全体の危険性」ではなく「核兵器の危険性」にのみ言及しており、内容として不完全なものとなってしまったのは残念です。

 (2)議長報告書の中で、ハイレベル濃縮ウランの生産禁止と、民間核施設からこれを撤去するよう勧告していることは、
大いに注目されます。

 (3)議場外でも大変有意義な対話をすることができました。マジャリ元ヨルダン首相は私に対し、イスラエルの核施設から
出る放射能によりヨルダンでは白血病、ガンなどの患者が増えており憂慮している旨、話しかけてくれました。

 また、核拡散の専門家の一人は、理屈は全く私の言う通りだが、それが通用するにはもう一つのチェルノブイリが必要だ、と
述べました。これが悲しい現実です。

 5年前にインドで行われた会議以降、久しぶりに再会したマクナマラ元米国防長官は、私が会議の席上、原子力の平和的
利用を認めたままで核兵器の全廃を実施することはかえって危険である、と指摘したことに理解を示してくれました。

 ちなみにマクナマラ氏はあのキューバ危機当時の国防長官ですが、その20数年後にキューバには核弾頭が実践配備され、その使用許可も出ていたことを知りました。危機一髪で核戦争勃発を逃れたこの経験から、氏は核兵器の恐ろしさを熱烈に訴え、その全廃を主張し続けています。

 (4)毎年50万人以上の犠牲者を生んでいる小型武器の問題に関しては、猪口教授の主張通り、「国連アクション・プログラム」に対する支持が議長報告書に明記されました。

 (5)今回の会議で私は、浜岡原発、六ヶ所村の再処理工場、ITERなどの危険性に言及するとともに、民事・軍事を問わない地球の非核化の理念を訴え、当面の課題として国際原子力機関(IAEA)の改組の必要性を強調致しました。

 4月1日のレセプションの折、スタンフォード大学の若手研究員が面識のない私を探し出し、あらかじめ事務局に提出してあったペーパーにもられていた民事・軍事を問わない核廃絶に関する私の考えを心から支持する旨、熱意を込めて伝えてくれたことがうれしく記憶に残っております。

 2.テロ時代の人権と人間の責任

 会議開催期間中の4月1日、サンタ・クララ大学において、近く“庭野平和賞”を受賞する「地球倫理財団」のハンス・キュング博士
による基調講演と、これに続く「地球倫理と人間の責任」をテーマとするシンポジウムが開かれました。

 そこで聴衆として発言を求められ、私の文明論(物質中心→精神中心、エゴイズム→連帯、貪欲→知足、など)について発言したところ、
多くの出席者より高い評価を受けました。特に、現在のグローバリゼーションの下での犠牲者が増えている点について、多くの出席者より共通の認識が表明され、「人権には未来の世代のものも含まれる」との考え方、そしてこれが新しい文明の創設を必要とする大きな理由であるとの指摘に対して、かなりの反響がありました。

 これを踏まえ、翌日の会議で私は、現世代が未来の世代に対して犯している罪(資源の濫用、廃棄物問題、巨大債務など)を指摘し、人権には未来の世代のものも含めて考えるべきだとのことを主張しました。これには強い抵抗がありましたが、若手の専門家の熱烈な支持もあり、結局認められました。前記の議長報告の中に盛り込まれたのです。

 人権が未来の世代も含んだ概念と規定されたことにより、資源、エネルギー問題、核問題、各地固有の文化を脅かすグローバリゼーション等々、多くの問題が浮き上がってきます。このことは、今後重要な足がかりになると思われます。

 3.今後の展望

 私の提唱する“地球の非核化と新しい文明の創設”という考えが、米国でも好意的に受け止めてもらえることが今回確認できたことは、大きな収穫でした。

 人間の責任を自覚する市民社会と、倫理を備えた指導層によって築かれるべき、新しい地球市民文化への展開が開かれつつあると感じた次第です。

 OBサミットは、戦争の悲劇が今なお繰り返される世界では権利と自由のみが主張され、政治・企業など各界の指導者達には責任感と倫理感が欠如している──との反省から、倫理問題に本格的に取り組んでおります。

 1997年には「人間の責任に関する世界宣言」をとりまとめ、国連総会で採択されるよう働きかけを行いました。今回の会合では、既存の「人権宣言」との関係から、これに反対している人権擁護団体関係者と元国連専門機関幹部の参加も得て、理解が深められました。国連採択へ向けて実質的進展が見られたと考えられます。

 OBサミットが、今後各国政府に対してこの「人間の責任に関する世界宣言」をはじめ、地球の非核化・新しい文明の創設など、新たな理念を訴えていくことが大いに期待されます。今後の運営いかんによっては、OBサミットは他の追随を許さない理想的な組織たり得ると思われます。

 今回の会合では、核軍縮に関し「核兵器の危険性」についての啓発の必要性が指摘されたのですが、しかし本当に必要なのは「原子力全体の危険性」に関する啓発であることは明白です。このことが“議題にそぐわない”との理由で取り入れられなかったという事実は、「原子力タブー」の限界を浮き彫りにしたものと言えましょう。

 6月に予定されているOBサミット総会がこれを是正して「原子力」を取り上げ、国際原子力機関(IAEA)の改組のイニシアティブをとることを期待します。
(村田光平)

     ◇関連記事:
「知足経済学」の提唱――OBサミット・ハイレベル専門家会合用資料
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我々は子供たちへの責任をはたしているか
“人間の責任に関する世界宣言”の試み
                兵藤長雄
























 1. 人間の責任に関する世界宣言

1 )インターアクション・カウンシル

人間の権利に関する宣言が1948年国連総会で採択されてから半世紀以上が過ぎそれに基づいて
法的拘束力を持つ国際人権規約A 規約B 規約と選択議定書が1976年に相次いで発効してから
既に久しいこれらの条約実施を確保するため国連人権委員会や差別防止および少数者保護に関する小委員会その他いろいろの委員会機関組織が国連の下で活動しているにもかかわらず重大な人権侵害は今日世界の至るところで跡を絶たないこの憂うべき現状を打開するため心ある多くの個人やNGO組織団体もいろいろなことを試み活躍しているインターアクション・カウンシルもそのひとつである
インターアクション・カウンシルInter Action Council はOB サミットと通称され1983年福田赳夫元首相の提唱で設立されたもので国家元首首相経験者30人前後が毎年非公式に集い人類が直面する政治経済社会倫理などの分野における諸問題の実践的な解決へ向けた提言をしてきている最初のインターアクション・カウンシル以下OB サミット総会は福田構想に共鳴していた国連のワルトハイム事務総長の引退直後であったので同氏の議長の下でウィーンで開催されそれ以降毎年G7現役サミット直前のタイミングで開催され04年で22回目を迎えた毎年の総会にはメンバーの中で都合のつく元大統領首相が30人前後集まりその時々の国際情勢についての意見交換と共に具体的なテーマを決めてそれについてそれぞれの国の指導者であった経験を活かした自由な立場からの議論をして行動に向けた具体的な提言をまとめて現役の指導者達に提出している元指導者の議論を有意義なものとするため事前に各テーマの専門家を集めた準備会合が開かれるのが慣例である􌛋􌛗
過去22回開催されたOB サミットは平和と安全保障世界経済の活性化開発人口環境の関連しあう問題など様々な問題と取り組んできたそのような議論の過程で特に元指導者達が強い関心を示してきたのが普遍的倫理の問題であったその背景には絶えることのない武力紛争戦争経済格差の拡大環境破壊などの背後にある人権問題の深刻化があった


2) 世界宗教指導者と政治家との会議

人権侵害の問題にはいろいろの側面があり複雑な背景理由があるがOB サミットはその中で次第に倫理的な背景に特に焦点をあてて検討が進められたOB サミットの提唱者福田赳夫元首相は人口問題をはじめ人類が直面している深刻な諸問題と真剣に取り組むためには倫理的な側面に考慮を払うことが不可欠であるとの確信を次第に強め同氏のイニシアティブで1987年ローマで世界の宗教指導者を集めたOB サミットのメンバーとの会合が開かれた
このローマ会議は世界の政治指導者と五大宗教の指導者が一同に会した近代史上初めての試みと言われた仏教イスラム教ヒンズー教ユダヤ教キリスト教の聖職者が日本福田赳夫元首相西ドイツシュミット元首相ナイジェリアオバサンジョ元大統領コロンビアボレロ元大統領オーストラリアフレーザー元首相など全世界から集まった7カ国の政治家と二日間に亘って真剣な議論を福田議長の下で重ねたのである
この会議の画期的なことは討議を通じて達した共通認識合意を世界的な諸問題に関する声明と題して世界に公表したことである􌛌􌛗 この声明は近代史上初めてインターアクション・カウンシルの招請により世界全大陸の政治指導者と五大宗教の指導者がローマで会談した二日間にわたり出席者は世界平和国際経済および相互に関連する開発人口
環境問題について話し合ったとの記述から始まっている平和の問題に関しては現在軍備競争に向けられている科学的技術的資源と能力は人類の生存と幸福を脅かしている全世界的な問題を解決するために使われるべきであるとの共通認識を述べオゾン層減少の調査推進生物の継続的減少の防止生物圏への脅威に対抗する手段など具体的問題にも言及している世界経済については債務危機問題を取り上げいかなる政府もいかなる国民に対しても人間の品位を奪うような窮乏を要求することは道徳的にできないと明言し極貧国の債務削減問題に真剣に取り組むことを求めたもっとも画期的なことは家族計画政策と手段に対する各宗派のアプローチの違いを認識しながらも指導者たちは現在の動向から見て効果的な家族計画の追及は避けられないとの合意に達したいくつかの国と宗派で持たれた積極的な経験は共有されるべきであり家族計画のための科学的研究が急がれる必要があると明言されたことであるシュミット元首相は世界中から集まった五大宗教の聖職者達が政治家とともに家族計画の重要性を認めたことは素晴らしい前進と会議を総括した

3) 倫理問題への本格的取り組み
ローマ会議という最初の意見交換の場で国際社会の直面する危機について議論する中でその背後にある根源的課題広く共有されうるなんらかの倫理基準を設定する必要性が次第に認識されるようになったしかしその直後に起きた冷戦構造の崩壊日本を始めとするバブル経済の崩壊湾岸戦争などの国際情勢の激変のためにOB サミットもその間この問題を掘り下げていく時間的な余裕を持たなかったしかし1995年夏国際紛争の根本的解決にはその背後にある基本的倫理問題への取り組みが不可欠であると強く主張した福田赳夫元首相が逝去したそしてOB サ我々は子供たちへの責任をはたしているか…― ―ミットの創設者の死がOB サミットが以後心の問題倫理問題へ本格的に取り組む契機ともなったシュミット元首相は福田氏葬儀の直後OB サミットが基本的倫理問題を最重要課題として取り組むことを提唱しOB サミットは1996年3月に再び世界の宗教指導者を招いて普遍的な倫理基準の探求と題して専門家会議をウイーンで開催することを決定した
この専門家会議にはシュミット議長の下に宗教指導者神学教授などの学者哲学者そして政治家が参集し議論が進められたその中で世界人権宣言から50周年の1998年に国連は人間の責任に関する宣言を検討する会議を招集し人権の果たして来た重要な役割を補完すべきであると提言されこれが承認されたその報告書は同年5月のOB サミッ
ト第14回バンクーバー総会に提出承認された
それを受けて1996年夏チュービンゲン大学のキュング神学名誉教授を中心としてトーマス・アックスウォーシー加キム・キョンドン韓国教授􌛍􌛗などの積極的協力によって具体的な責任宣言の草案起草作業が開始され1997年4月再びウィーンにおいてシュミット議長の下で前年の専門家会議参加者が集まりこの草案の詰めの検討が行われたこの検討にはノーベル平和賞受賞者でOB サミットメンバーでもあるオスカー・アリアス元コスタリカ大統領も積極的に参画した
このようにして出来た専門家会議最終草案が同年の第15回ノルドヴァイク総会に提出され積極的な議論の中でカーター元大統領をはじめ多くの有益な修正案も出されシュミット議長ファン・アクト・オランダ元首相ファーグラー・スイス元大統領に最終的なリダクションが委任された総会最終案は国連提出草案として8月にOB サミット全メンバーに送付され署名されたそれを受けて9 月1日正式に採択され国連のアナン事務総長と全世界の政府に送付された

4) 人権宣言と責任宣言
OB サミットにおける普遍的な倫理基準の探求その過程での議論の詳細な紹介は紙数の制約もあり不可能であるが参加者の思考の出発点は世界人権宣言特にその第29 条すべての人の社会に対する義務であった
最近の国際社会を見るとハンティントンの文明の衝突は不可避ではないにしても文化と宗教間各地域間の相互不寛容性はますます先鋭化しているように見える先進民主主義を自負する欧米社会では日本も含め家族地域社会母国に対する責任を受け容れることなく権利ばかりを要求する人々が増え続け多くの問題が行き詰まっている
OB サミットの会議では権利は自由と関係し義務は責任と関連するとの議論を経て無関心の自由からかかわりあう自由へと転換する必要性が強調されたこの専門家会議の議長を務めたシュミット元首相は報告書􌛎􌛗の中で次のように総括している
人類の義務という概念は自由と責任の均衡をはかってくれる権利は自由と関わりあいがあり義務は責任と関係があるしかしこうした違いはあっても自由と責任は相互依存の関係にある責任は道徳的資質として自由を自然に自発的に抑制するいかなる社会においても無制限な自由というものはありえないしたがって楽しむことができる自由が大きければ大きいほど私たち自身に対してまた他の人々に対して負う責任も重くなるまた持てる能力が多ければ多いほどそれを最大限発揮するという責任も増す私たちは無関心の自由から関わりあう自由へと移行しなければならない
権利だけを主張することが際限ない紛争の可能性を高める宗教団体が自らの自由を主張するからには他の宗教の自由を尊重する義務がある自由と責任は相互に依存しあい均衡し合うことが求められる適正なバランスを欠く無制限な自由は強制された社会的義務と同じくらい危険である極端な経済的自由と資本主義的強欲が深刻な社会不正をもたらした事例社会の利益または共産主義の理想という名のもとに人々の基本的自由への弾圧が正当化された事例は何れも枚挙にいとまがない権利と義務は密接に関連しあっている生命の権利は生命尊重義務と思想良心信仰の自由の権利は他者の思想信仰の尊重義務と表裏一体である
上述の一連の世界宗教指導者との専門家会議ではこの議論を更に掘り下げてこのような認識は実は古来の聖者や賢者倫理指導者が説いてきたものであったとの共通の認識に到達した例えば上述のような認識は自分にして欲しくないことは他人にもするなというすべての宗教に共通する黄金則から出発しているまたマハトマ・ガンジーの七つの社会的罪がしばしば引用されたア原則なき政治イ道徳なき商業ウ労働なき富エ人格なき教育オ人間性なき科学カ良心なき快楽キ犠牲なき信仰倫理は集団生活を可能にする最低限の基準である倫理とその帰結である自己抑制なしには人類は弱肉強食の世界に逆戻りしてしまう世界はその上に立つことのできる倫理的基盤を必要としている人間の責任に
関する世界宣言案の起草はこのような議論を背景として進められた

5 )世界責任宣言と国連への働きかけ
責任宣言全文邦訳は本論末尾に付録として収録したとおりであるが人間性の基本原則非暴力と生命の尊重正義と連帯真実と寛容相互尊敬とパートナーシップの五項目19 条にまとめられ国連総会がこれをすべての人々すべての国家の共通の基準として宣言する形をとっているそれはこの責任宣言が世界人権宣言から出発しこれを補完するものとの
強い信念に基づいているからである
最も注目すべき条項の一つは賢明な家族計画はすべての夫婦の責任であると明言した第18条である同条は更にいかなる親も他の成人も児童を搾取し酷使または虐待してはならないと規定している
この国連提出草案に基づいてカーターゴルバチョフキャラハンジスカール・デスタンシュミットトルードー等主要国の元大統領首相をはじめOB サミットのメンバーが自国政府国連に働きかけて責任宣言の国連での採択を目指すこととなった日本では土井たか子社民党前党首や武村正義塩川正十郎元大蔵大臣等が積極的賛意を表した他コフィ・アナン国連事務総長キッシンジャー元国務長官マクナマラ元世銀総裁ポール・ボルカー米連銀総裁ワイツゼッカー・ドイツ元大統領スハルト・インドネシア大統領マフード・ザクズーク・エジプト宗教大臣アブドラジス・アルクライシ・サウジアラビア元通貨庁総裁エルハッサン・ビンタラール・ヨルダン皇太子をはじめ世界の聖職者等も初期賛同署名者となって積極的な支持を表明したアナン国連事務総長も積極的な関心を示し中国エジプトインドおよびインドネシアが責任宣言採択の動議を提出するところまで漕ぎつけた責任宣言はアジアをはじめ開発途上国の政治関係者には好意的に受け入れられ世界の多くの地域の学者や宗教指導者からも好評をえた
例えば中国では97年9 月10―12日北京において24人の宗教家儒教道教仏教キリスト教と社会科学の学者が集って中国文化の視点から普遍的倫理と人間の責任の問題を検討し人類の普遍的倫理基準の探求を促進する方途を検討する為の学術会議が開催され前向きのステートメントが出された􌛏􌛗 インドでは責任宣言と後述の世界宗教家会議が採択した世界倫理に関する宣言を検討する為に97年11月22―23日ニューデリーで50人以上の宗教家学者の会議が開催され両宣言の考え方に基本的に共感しその推進に熱意が示された􌛐􌛗しかし最終的にはこの試みは成功しなかったこれに最も強く抵抗したのは欧米の先進民主主義国といわれる国々の人権擁護団体一部のメディアおよび政治指導者であった何故彼らは反対したのかシュミット議長の総括報告は次のように述べている
多くの社会は伝統的に人間関係を権利よりも義務の面で捉えてきている例えば一般的に東洋の考え方がそうである伝統的に西洋では少なくとも17世紀の啓蒙運動以来自由と個人の概念が強調されてきたのに対し東洋では責任と共同体の観念が強かった人間の義務に関する世界宣言ではなく世界人権宣言が起草されたのは周知のように起草者が第二次世界大戦の勝者となった西側諸国の代表者でありそこに彼らの哲学的文化的背景が反映されていることは疑いないところであろう反対論者は世界人権宣言の具体的な実施のために為すべきことが山積している今責任宣言は人権宣言の更なる徹底実施を複雑化し人権宣言そのものを弱体化すると主張するまた国連は基本的には加盟国の政
府の組織であり個人の普遍的倫理基準の宣言は国連には馴染まないという反対論も出されたしかし責任宣言は記述の如く人権のより確実な行使履行を確保するのが目的であり表裏一体であること責任宣言には国家の責任義務を直接取り上げているものもある例えば第6条ことを考えればこのような批判は責任宣言の理解不足によるものとしか思えないまた欧米諸国の政治指導者の中には責任宣言が開発途上国側によっていろいろな分野で欧米諸国側の責任追及の有力な武器として活用されることを懸念した者もいたのかも知れない
しかし責任宣言の真意を良く説明し誤解を解けば反対論者も支持者になった例も多い例えば米国のメディアは当初一斉に責任宣言反対キャンペーンを展開した特に責任宣言第14条報道の自由と責任:正確性真実性センセーショナリズムの回避は報道の自由を脅かすものとして反対したしかし1998年夏モスクワで開催された世界報道編集者
会議においてOB サミットメンバーであるカレビ・ソルサフィンランド元首相が責任宣言についいて説明する機会が与えられ縷々理解を求めた結果例えばインターナショナル・ヘラルド・トリビューンやフィナンシャル・タイムズ紙は責任宣言の支持者になった世界的ヴァイオリニストメニューヒンは責任宣言に感激し晩年この熱心な推進者になったように世界中でこのアイデアに共鳴する文化人識者も決して少なくなかったOB サミット事務局は10万人に及ぶ世界の人々から賛意を表し協力を申し出る書簡を受領した責任宣言は現在20ヶ国語に翻訳されている

2. 責任宣言とその後のフォローアップ
1 )世界宗教指導者との第4回会議ジャカルタ
世界人権宣言50周年に合わせて責任宣言を国連総会で採択するとの試みは結実しなかったが国際社会の中に普遍的な倫理を求める動きはその後もOB サミットの内外で続けられている国連の諸機関例えば1997年のUNESCOによる普遍的倫理プロジェクトや世界の宗教団体アカデミックな会合でも人間の責任に関する問題がしばしば取り上げられるようになってきている
特に9・11テロ後の新たな国際情勢の緊張の中で再びこの問題に対する関心は高まりつつありOB サミットは2003年3月米英両国によるイラク侵攻の直前ジャカルタで分断に掛ける橋Bridging the Divideと題して再び宗教指導者と政治指導者との会合を開催した9・11テロ後イスラム圏内の国々では米国の一国中心主義への傾斜に反発し反米感情が助長される中でイスラム圏を欧米と対峙させる短絡的動きが顕著になってきたことへの危機感がその背後にあった
ジャカルタ会議にはイスラム教仏教ヒンズー教ユダヤ教そしてキリスト教からはカトリックギリシャ正教プロテスタント各宗派の代表そして儒教を代表して韓国の哲学者が政治指導者としてフレーザー豪ファンアクト蘭元首相ハビビ・インドネシアマウア・エクアドル元大統領が参加した
筆者もこの会議に専門家として参画し直接議論に参加する機会を得た筆者にとっては世界の宗教指導者との会合は始めての経験であったが印象的だったのはイラク戦争直前の緊迫した情勢下であったにもかかわらず議論は極めて静かに理性的に行われたことである聖職者達は異口同音に各宗教の教義はそれぞれ異なるがそれよりも多くの基本的な倫理を共有していること信仰を分断するものよりも結び付けるものの方がはるかに大きいことを強調した
この会議での議論の合意点コンセンサスは声明􌛑􌛗としてまとめられたこの声明は特にすべての宗教指導者に対し暴力とテロリズムの宗教的正当化を強く拒絶するよう呼びかけ世界の指導者に対し過激主義を排し異宗教と異民族間の分断の橋渡しをすべく積極的な行動をとることすべての国家に対し国連を公正均衡平和を達成する最善の手段と位置づけ恣意性ダブルスタンダード不公正な差別に反対することを訴えたそして今こそ責任宣言の精神を実行する時であることを強調した
この会議でイスラム教の聖職者からもイスラムキリストユダヤの三宗教のルーツは同根でありアブラハム信仰西欧文明はイスラム文明の多くの遺産の上に築かれている数学天文学などとの指摘がなされたイラク情勢が緊迫する中でイスラムキリスト両文明の衝突という悪夢をどう回避するかに大きな関心が集まったのは当然であった

2) われわれは子供たちへの責任をはたしているか
責任宣言の国連総会採択はなお実現していないがそのことはOB サミットのこの問題への関心低下を意味するものではないむしろこの問題をより具体的な問題に向けて追求していくことが混迷を深める国際社会の現実の中でますます必要になっているとの認識が強まったそこで最も喫緊の問題である児童の問題を取り上げ04年は子供に対する責任を厳しく問うことが決定されたそこで第22回ザルツブルグ総会に向けた準備として3月東京においてわれわれは子供たちへの責任をはたしているかとの議題で専門家会議が開催されたこの会議は1987年のローマ会議の継続と位置づけられ宗教指導者としてローマ会議以来ウィーン会議にも出席した仏教徒アリヤラトネスリランカやヒンズー教徒アグネヴェシュインド両聖職者が参加した他スエーデンのオーンベリ元農水大臣現スエーデン児童救済財団理事長キム韓国社会福祉教育委員会総裁ハンソン米国サンタクララ大学倫理学教授などが海外から専門家として参加した国連からはオトゥヌ事務総長特別代表子供と武力紛争担当の参加が予定されていたが国連の会議と重なりペーパーによる参加となった政治家としてはフレーザー豪宮沢両元首相マウア・エクアドル元大統領が参加した以下会議での議論特に共通認識となった事項を要約したい専門家会議では子供の権利条約戦争とテロ教育問題エイズ児童の搾取問題の順で議論が進められた子供の権利条約については筆者が報告者として児童権利条約成立の経緯武力紛争への児童の関与と商業的性的搾取に関する二つの選択的議定書成立の意義国連における子供の問題に対する取り組みの経緯子供の権利委員会子供サミットマシェル報告􌛒􌛗のインパクトなどについて報告した
議論はまず15年前国連総会が児童に完全な人権を保証した児童権利条約を採択し192カ国がこの条約を批准したのに今日何故未だに広範囲に子供たちが虐待や苦痛の犠牲者になっているのかという具体的現実の紹介から出発した
例えば数値だけで悲惨な現状の全体像を語りきることはできないがその記録は衝撃的である世界の5歳から14歳までの子供たちのうち2億5千万人が労働に従事しそのうちの7千万人は10歳以下の児童である
国際労働機関ILO によると世界の児童労働者の7割が農業に従事し1億2千万人の子供たちが教育を受けられずにおりおよそ30万人の児童が世界で30にも達する武力紛争の兵士となっている約2千万人の子供たちが武力紛争や人権侵害のために家から追われている2010年までには2500万人の子供たちがエイズHIV/AIDS の犠牲で孤児になる等である
条約に調印し批准しただけではこの条約が確実に履行される保証は国際社会にはないこれを国内立法化し具体的措置をとらなければ死文化してしまう国連の子供の権利委員会もその実施状況を監視することになっているがなかなか実態の把握は困難な面がある戦争とテロリズムの最大の犠牲者は子供であることは誰もが認める大きな反響を呼んだマシェル報告によれば過去10年間で200万人の子供が戦争で殺されその3倍の子供が生涯にわたる障害をともなう重傷を負い2000万人の児童が難民となった武力紛争は学校教育施設を破壊し虐殺レイプ性的搾取飢え疾病そして貧困を極限化させる最も深刻なのはこのような残酷な現実が子供の心に与える傷である今でも子供を惹きつけるようなデザインの1億1000万発以上の対人地雷が子供を犠牲にし続け農地を破壊している対人地雷の制作費は一個3米ドルその除去費は300―1000米ドルとの試算も紹介された武力紛争の解決に向けた和平交渉の際にも児童の保護が議題になることは今まではなかったことが政治指導者の児童への関心の欠如を如実に物語っている
貧困の問題と関連してアグニヴェシ氏がインドは事実上二つの国民エリートと圧倒的多数の貧民から成り立っており宗教もエリート層の教育統治のために奉仕し本来の精神的な価値が軽視されているインドでは6500万人の子供たちは学校に行けず奴隷的労働をさせられているインドが輝いて見えるのはペーパーの上だけにすぎないと極めて厳しい見
方をしていたのが印象的であった児童の中でも貧困非識字疾病などの生活苦は少女たちにより重くのしかかっている次世代の母となり中心的な養育者となる役割を背負う少女たちの窮状は世界全体の恥であるとの指摘もなされた一方世界中のすべての子供たちに教育の機会を与え病気の子供たちを治療するための医療品やワクチンを普及させ世界中のすべての子供たちが満たされた一生を過ごせるという希望を与えるための知識や技術そして資源が欠落しているわけでは必ずしもない
例えば世界全体の軍事費の僅か4日分を世界中の教育普及の為の財源として転換すればすべての子供が読み書きの機会をうることができる現在先進工業国は自国の経済問題を抱え援助疲れが顕著で寛大さを失い全体として援助はわが国を含め削減傾向にあるしかもこれらの先進諸国の国産農産品に対する巨額の補助金は開発途上国側の国際農業市場への公平な参入を困難にし経済的自立を不可能にしている問題は資源や技術の不足ではなく優先順位の問題である途上国援助と軍事費は徹底的に再調査再評価されるべきだ多くの諸国が軍事費に巨額をつぎ込みその多くが浪費されている世界中の子供が直面している諸問題の殆どを克服するのに充分な財源がそこにはある世界で最も貧しい子供たちに対するわれわれの不履行の根本的原因は政治的意志の欠落なのだこの責任は豊かな国貧しい国双方の政治指導者のみならず世界の子供たちの窮状とどう関わり合うべきかという倫理観を教えなかった宗教家や教師たちにもある
今必要なのは道徳心や倫理観を備えたより高い国際協力の精神であり世界の指導者たちが道徳心や倫理観の重要性を再認識する必要がある第二次大戦直後には分かち合いの精神があった米国は戦後の荒廃からの復興財源としてマーシャル・プランやガリオア・エロア資金を実行するなど偉大なリーダーシップを発揮した国連の創設における米国の役割は世界が非人道的力によってではなく法によって統治されなければならないという力強いメッセージの発信でもあった今こそそのような目的意識を取り戻す必要がある
国際的な公正さという意識の向上がない限り世界が平和の実現やテロリストの根絶を達成することは困難だOB サミットは人間の責任を受け入れることが人権を補強することに繫がると一貫して主張してきたが子供の人権われわれの子供に対する責任を考えればこのことは一層強く妥当する

3) 国際シンポジウムわれわれは次世代への責任をはたしているか
専門家会議に続いて3月21日読売新聞社と東洋大学の協力を得て東洋大学キャンパスにおいて公開国際シンポジウムが開催された参加者は専門家会議参加者の他に日本から塩川正十郎前財務大臣稲盛和夫京セラ名誉会長伊勢桃代アジア女性基金専務理事他が参加した会議の第一セッション武力紛争に脅かされている子供への責任第二セッション貧困・疾病・搾取に脅かされている子供への責任第三セッションいかに子供たちを守りうるかというサブ・タイトルで行われ筆者は第一セッションのパネリストとして専門家会議の概要を紹介するという形で問題提起を行った議論の中核は児童の権利条約の履行を阻害している最大の要因は戦争武力紛争であり中東アフガニスタンイラクにおける子供の犠牲の悲惨な実態が改めて強調された第二セッションでは塩川稲盛両パネリストより開発援助について実態成果の再評価特に援助が有効適切に使用されず為政者のポケットにはいるような現状を早急に改善する必要性が強調され他のパネリストからは援助は原則無償に切り変えるべしとの主張もなされた第三セッションでは稲盛パネリストから私費を投じて設置した虐待児童施設での経験談が披露され同氏も根本は精神的倫理的な問題であることを強調し人間の責任宣言のアイデアは素晴らしいが全く知られていないのは残念であるとしてこのアイデアの一層の推進を支持し広報の必要性を強調した公開討論では武器の輸出売買についての鋭い指摘も聴衆からなされ活発な議論が行われた

3. われわれは子供に対する責任をはたしているか
04年第22回ザルツブルグOB サミット総会第22回OB サミットの主要テーマは責任宣言のフォローアップとして児童に対する責任の問題を取り上げ検討することであったがその中での武力紛争と子供の問題は最も切実な問題であった悪化する中東情勢アフガニスタンイラクへの武力介入の泥沼化の中で9・11テロ以後の米国の新しい安全保障政策の大きな柱となったブッシュ・ドクトリン先制予防攻撃論は国際社会に大きな不安と反発を呼び起こしたそこでOB サミットはこの問題を取り上げザルツブルグ総会の直前ウィーンで国際法学者を中心に正当化されうる軍事介入のテーマで
この問題を討議することとした

1) 正当化されうる軍事介入
この専門家会議の議論は本稿の主題を少し離れるので詳説は避けるが参加者は多数の国際法学者の他フランソワ・ポンセ仏ヤンコウヴィッチ墺元外相マクナマラ元米国防長官ペトリッシュ墺国連大使OB サミットからシュミット独フレーザー豪宮沢元首相が参加した筆者も先制攻撃ドクトリンの挫折とインテリジェンスと題するペーパーを提出して参加した
会議のコンセンサスはブッシュ・ドクトリンを危惧する否定的意見が圧倒的に多かった特にイラクに対する対応は国際法違反であり否定的な国際的反応を招き結果的にも脅威の拡散に繫がりつつあるとして批判されたマクナマラ元国防長官はベトナム戦争にも言及しつつ極めて強くブッシュ政権の対応に危機感を表明していたのが印象的であった
結論は9・11テロ後の変化した国際社会においても基本的には法の支配国際法秩序国連特に安全保障理事会の重要性は不変であり如何に絶大な軍事力経済力がある国もこの基本を無視して自国の信念だけで行動することは許されないというものであったが議論が分かれたのは人道的武力介入であった
見解が分かれるのはカンボジアソマリア東チモールのように国連安保理の下での介入ではなくコソボの如く国連の承認はなくNATOという地域機構の決定で行うものをめぐってである結局はケース・バイ・ケースで検討する他ないということに落ち着いたが問題はスーダンの事例の如く児童も含めダフール地域で重大な人権侵害の事例が報ぜられるにもかかわらず国際社会の方に行動を起こす意思が乏しいことだとの指摘もなされた

2) 第22回OB サミット・ザルツブルグ総会
第22回OB サミットは7月21―23日オーストリアのザルツブルグにおいて開催されたOB サミットのメンバーとしてシュミット名誉議長フレーザー豪宮沢両議長の下でヴァイツゼッカー独プリマコフ露カールソンスエーデンマジャーリジョルダンマジーレボツアナデラ・マドリメキシコ等20人の元首相大統領が参加した他ブルーメンソール米元財務長官マクナマラ元国防長官福田康夫元官房長官等の元閣僚や専門家学者が多数参加した総会は慣例として参加者の一人がその時々の重要な国際問題について私見も交えて基調報告をすることから始まるが第22回総会はカールソン元スエーデン首相が報告者となった最大の関心は当然のことながらイラク問題やパレスチナ・イスラエル紛争を中心とする中東情勢であった丁度アルグレイブ収容所やグアンタナモ基地における米軍による抑留敵戦闘員の虐待問題がクローズアップされていた時でもありブッシュ政権のイラク政策特に専門家会議の第二のテーマが先制攻撃論であったこともありブッシュ・ドクトリンに対しては米国からの参加者但し民主党系も含め厳しい批判が続出したまたイスラエルが建設中の隔離壁は国際法違反と断罪した勧告的意見を国際司法裁判所が出した直後でもあったので中東紛争におけるイスラエルの行動それを事実上黙認する米国への非難が強く出された
先制攻撃論をめぐる専門家会議の否定的結論は全面的に支持されたなお貧困特にアフリカにおける貧困問題の深刻化の中でスーダンのダフール情勢の危機的実態に対する大国の関心の低さに対する批判が強く出された
蛇足ながら筆者は専門家の立場で国連の役割の再認識機能強化の必要性を強調した中で国連は経緯的には第二次大戦の戦勝国による敵国封じ込めの思想が色濃く残っていることを指摘し旧敵国条項憲章第53条2 第107条の即時削除から始めて安保理の構成予算の分担など国際社会の現実に即した改革が喫緊の課題である旨を強調したところ最終コミュニケにその主張が挿入されたわれわれは子供たちへの責任をはたしているかの中心議題については結論は明確に否であり専門家会議の報告が全面的に賛同を得たのみならず更にいくつかの具体的な提案も積極的に評価された例えば英国から専門家として参加した元教育相ブラックストン女史が紹介したUNICEF WHO ワクチン基金が共同で進めている免疫化計画を財政的
に支援する提案􌛋􌛔􌛗に対し子供の疾病問題に対する現実的対策として積極的関心が示された
また最も根本的な問題戦争と貧困の問題に対して先進国の援助疲れの現状に鑑み被援助国の軍事支出軍縮努力と援助額をリンクさせる考え方例えば必要性を超えて軍備拡張を図る被援助国に対しては財政援助を停止ないし大幅削減すべしとの提案も出された
そして何よりも重要なことは児童の問題の議論を通じて世界の指導者に対して子供への責任を果たすことが彼らに求められる倫理の中核的部分であるという共通認識であった
このように児童の問題と予防戦争の議論を通じて改めて国際社会における道徳心の欠如最高度の普遍的倫理基準の追求とその実現人間の責任に関する世界宣言の国連における採択を目指して努力を新たにすることが決議されたもしこの方向ヘ向けての努力が実を結ばなければ文明の衝突も避けられないとの危機感も表明された

3) 普遍的倫理基準に向けての潮流
普遍的な倫理の必要性を求める動きは実はOB サミット以外でも相前後して始まっていたユネスコでは1989 年2月10-12日パリで諸宗教間の平和なくして世界平和はないとの議題の下でシンポジウムが開催されたこれは世界の平和と安全の確保が最重要課題である国連が多くの国際紛争の根底に横たわる宗教間の対立抗争に光を当ててこの面から国際平和への貢献を試みたものである翌年90年にはダボスでの国際経済フォーラムで世界経済と宗教の問題のコンテクストの中で普遍的な倫理の必要性が議論された
その中で最も具体的に行動したのは宗教団体宗教家自身であった1993年8月28日―9 月4日シカゴで開催された世界宗教家会議The Parliament of the World’s Religions ではこの会議に参加した6500人の世界の諸宗教の代表者によって普遍的な倫理に向けての宣言が署名されたこの宣言は世界宗教家会議百周年を記念するものでもあったがこの宣言の発出に至る経緯その基本的認識は今まで述べてきたOB サミットでの経緯認識と一致している1997年に署名され公表された人間の責任宣言もこの動きに触発された面もある
両宣言の中には共通した認識が多く含まれている宗教家と政治家による倫理責任両宣言に類似の条項が多く盛り込まれているのは偶然ではない世界宗教家会議が倫理宣言を起草するに当たって世界の学識者の協力を求めたが協力したグループの中核となったのがチュービンゲン大学のキュングHans Kueng 神学名誉教授であったそしてOB サミット
で責任宣言の起草が検討された時その熱心な推進者であったシュミット元首相が協力を求めた専門家の一人がキュング教授であった結局倫理宣言起草の経験を持つ同教授は再び中核的な働きをする結果となったのである􌛋􌛋􌛗
4) 結語
以上瞥見してきたように絶えることのない血なまぐさい武力紛争国際テロという新しい脅威拡散し深刻化する人権侵害その中で児童が最大の犠牲者である現実に直面して普遍的倫理基準を求め基本的人権を強化するための責任宣言を志向する動きは21世紀の人類の方向を示唆するものがある05年のOB サミットは国連60周年を記念して6月にサンフランシスコ近郊で開催されることが決まっているが04年の第22回OB サミットでは責任宣言の国連での採択に向けて再度努力を新たにすることが決議されたしかし責任宣言が人権宣言に対立しこれを弱体化相対化するとの誤解に基づく反対論は欧米の人権擁護団体それを背景にした政治家政府の中でなお根強いものがある筆者自身は国連での責任宣言の採択にはなおかなりの時間が必要だと見ているがOB サミットの求める方向は21世紀のあるべき人類の方向であると確信している

付録
人間の責任に関する世界宣言
前文

人間家族全員に備わっている本来の尊厳および平等かつ不可侵な権利を承認することは世界における自由正義平和の基礎であり義務ないし責任を示唆するものであるので
権利の排他的主張は武力抗争分裂および際限ない紛争に帰着する可能性がありまた人間の責任を無視することは無法と無秩序を引き起こす可能性があるので
法の支配と人権の促進は公正に行動するという男女の意思にかかるものであるので地球的な諸問題はあらゆる文化および社会によって尊重される理念価値および規範によってのみ達成されうる地球的解決を要求しているのですべての人々にはその知識と能力の限り自国と地球全体においてより良い社会秩序を育成する責任がありこの目標は法律規定および協約のみでは達成できないので
進歩と改善への人間の願望はいかなる時にもすべての人々と組織に適用すべく合意された価値および基準によってのみ実現されうるものであるのでよってここに国際連合総会はすべての個人および社会のすべての機関がこの人間の責任に関する宣言を念頭に置きながら共同体の前進とそのすべての構成員の啓発に資するべくあらゆる人々とあらゆる国々の共通の基準としてこの宣言を公布するかくて我ら世界の人々はすでに世界人権宣言が宣明している誓約すなわちあらゆる人々の尊厳彼らの不可侵な自由と平等および彼ら相互の連帯の全面的認容を改めて確認し強化するものであるこれらの責任の自覚と認容は世界中で啓蒙され推進されなければならない

人間性の基本原則
第1条
すべての人々は性人種社会的地位政治的見解言語年齢国籍または宗教に関わらずすべての人々を人道的に遇する責任を負っている
第2条
何人もいかなる形にせよ非人間的な行為に支持を与えてはならずすべての人は他のすべての人々の尊厳と自尊のために努力する責任を負っている
第3条
何人もいかなる集団もしくは団体国家軍隊もしくは警察も善悪を超越した存在ではないすべてが倫理的規範の対象であるすべての人はあらゆることにおいて善を推進し悪を避ける責任を負っている
第4条
理性と良心を授けられたすべての人々は各々と全員に対するすなわち家族と地域社会に対する人種国家および宗教に対する責任を連帯の精神によって受け入れなければならない自分自身が他者からされたくないことは他者
に対しても行ってはならない非暴力と生命の尊重
第5条
すべての人々は生命を尊重する責任を負っている何人にも他の人間を傷つけ拷問しまたは殺す権利はないこれは個人または地域社会の正当な自衛の権利を除外するものではない
第6条
国家集団または個人の間の抗争は暴力を伴わずに解決されるべきであるいかなる政府も集団虐殺またはテロリズムを黙認または加担してはならず我々は子供たちへの責任をはたしているかまた戦争の手段として女性児童またはその他のいかなる市民も虐待してはならないすべての市民および公務員は平和的非暴力的に行動する責任を負っている
第7条
すべての人々は限りなく尊く無条件に保護されなければならない動物および自然環境も保護を求めているすべての人々は現在生きている人々および将来の世代のために空気水および土壌を保護する責任を負っている

正義と連帯
第8条
すべての人々は高潔誠実および公正に行動する責任を負っている何人もまたいかなる集団も他人または集団の財産を強奪しまたは恣意的に収奪してはならない
第9 条
すべての人々は必要な手段が与えられているならば貧困栄養失調無知および不平等の克服に真剣に努力する責任を負っているすべての人々に尊厳自由安全および正義を保証するために全世界で持続可能な開発を促進すべきである
第10条
すべての人々は勤勉な努力によって自らの才能を開発する責任を負っている人間は教育および有意義な仕事への平等な機会を与えられるべきである誰もが困窮者不遇者障害者および差別被害者に支援を与えるべきである
第11条
あらゆる財産と富は正義に則し人類の進歩のために責任を持って使われなければならない経済的および政治的権力は支配の道具としてではなく経済的正義と社会的秩序に役立つように使われなければならない

真実性と寛容性
第12条
すべての人々は真実を語り誠実に行動する責任を負っている何人もその地位がいかに高くまたいかに権限が強大であっても偽りを語ってはならないプライバシーと個人的および職業上の秘密保持の権利は尊重されるべきである何人にも常にすべての真実をすべての人に話す義務はない
第13条
いかなる政治家公務員実業界の指導者科学者文筆家または芸術家も一般的倫理基準から免責されず顧客に対して特別な義務を負う医師弁護士その他の専門職も同様である職業その他の倫理規定は真実性および公正性などの一般的基準の優先性を反映すべきである
第14条
公衆に知らせ社会制度および政府の行動を批判するメディアの自由は公正な社会にとり不可欠であるが責任と分別をもって行使されなければならないメディアの自由は正確で真実な報道への特別な責任を伴うものである人間の人格または品位をおとしめる扇情的報道はいかなる時も避けなければならない
第15条
宗教的自由は保証されなければならないが宗教の代表者は異なる信条の宗派に対する偏見の表明および差別行為を避けるべき特別な責任を負っている彼らは憎悪狂信および宗教戦争を煽りまたは正当化してはならずむしろすべての人々の間に寛容と相互尊重を涵養すべきである

相互尊敬とパートナーシップ
第16条
すべての男性とすべての女性はそのパートナーシップにおいて尊敬と理解を示しあう責任を負っている何人も他人を性的搾取または隷属の対象としてはならないむしろ性的パートナーは相互の幸福に配慮する責任を認容すべきである
第17条
あらゆる文化的および宗教的多様性の中で結婚は愛情忠実心および寛容を必要とするものであり安全と相互扶助の保証を目指すべきである
第18条
賢明な家族計画はすべての夫婦の責任である親と子の関係は相互の愛情尊敬感謝および配慮を反映すべきであるいかなる親も他の成人も児童を搾取し酷使または虐待してはならない

結論:我々は子供たちへの責任をはたしているか…
第19 条
本宣言のいかなる規定もいずれかの国集団または個人に対して本宣言および1948年の世界人権宣言に掲げる責任権利および自由の破壊を目的とする活動に従事するまたはそのような目的を有する行為をする権利を認めるもの
と解釈されてはならない



1 インターアクション・カウンセルの歴史活動の概要については事務局の作成したIn Pursuit of Responsible World 2003 があるインターアクション・カウンシルのウェブサイトhttp//www.interactioncouncil.org の目次からすべての関連文書を検索できる
2 同上A Statement on Global Issues, 1987
3 Thomas Axworthy,トロント大学教授元ハーバード・ケネディ・スクール教授カナダのトルードー首相の官房長官等を歴任Kim Kyong―dong ソウル大学教授
4 Universal Declaration of Human Responsibilities,InterAction Council1997
5 “A GLOVAL ETHIC AND GLOVAL RESPONSIBILITIES”Editedby Hans Kueng and Helmut Schmidt , SCM Press LTD p. 1256 Ibid p. 130
7 A Statement from the InterAction Council Meeting of Political andReligious Leaders “Bridging the Devide”2003
8 戦争と子供たち武力紛争が子供におよぼす影響国連事務総長任命専門官Graca Machelの報告書“Impact of armed conflict on children”UN General Assembly A/51/306,26 August 1996 の邦訳国連広報センタ
ーと日本ユニセフ協会発行
9 Joint Communique , InterAction Council 2004, P3
10 Lady Blackstoneの推進する構想を説明したものとして“double aid
and halve poverty” website; www.dfid.gov.uk International Finance
Facility は財務省と対外援助庁が設立した組織Website; www.hm-trea-sury.gov.uk
11 二つの宣言の比􍟛 共通点に関してはKueng 教授の註5 の著書に詳しい我々は子供たちへの責任をはたしているか…

参考  市民国連憲章