2011.6.20 “安全な原発とは”
   ─ 初心を忘れたこの三十年が全てを狂わせた ─
                       古川 和男

要約:】現行の原発体系は、安全性のみでなく未解決な問題が余りに多い。
「我々の単純化された新トリウム熔融塩原発」によれば、
それらの難問全てを
 解決しつつ、僅かの資金と期間で実用化可能であって
世界に展開利用できる。

原発の賛成・反対両派が「持論」をぶっつけあっているのは不毛ではなかろうか?

世界で最初に原子力平和事業への責任を負った、リリエンソール(米国初代原子力委員長)
 は、三十年前に“原子力:新出発”(『岐路に立つ原子力』古川和男訳 日本生産性本部刊)
 との遺書を残したが、彼の願いは「第三の道」であった。それに答えようとしてきたのが
 我々のである。太陽系エネルギーは世紀後半の主役であり、当面原子力に頼らざるを得ない。

「核分裂」は、本来「自然現象」

ウラン235濃度が高かった二十億年前には、ガボンのウラン鉱山で雨水により「天然原子炉」が
 稼働していた。1972年の発見より16年前には、故黒田和夫博士(
米アーカンソー大名誉教授・
 地球化学、
20014月没)が見事に予測していた。それ位、核分裂は自然な「現象」である。

或る種の重原子核に中性子をもう一つ加えると、原子核が不安定になりほぼ2つに分裂し、
 超異例に大きな「核化学反応エネルギー」を放出するのがこの「核分裂」である。
 その燃料消費量は化石燃料の百万分の1であっても、原子核物質が変化する「化学反応」で
 ある。したがって、当然なこととして「化学工学装置」となる。

この核分裂反応遂行、その反応生成物処理処分、残渣の処理・再利用を経て、次の核分裂反応炉に
 循環させる「核燃料サイクル化学工学」を完成させるのが『事業の本質』である。
 「発電」などは、そのごく一部の作業に過ぎない。

戦後の「原発開発史」は間違っていた

全てが“間違っていた”訳ではない。3,40年前までは例外があった。しかし戦中に
 始まったために、良いプルトニウム生産炉ついで良い(原潜)発電装置の完成が強く志向され、
 合理的“核燃料サイクルの完成”とその関連技術整備への配慮は副次的で、ついに完成できなかった。
 軍用では、「良いエンジン」が得られれば最高で、「後は知らぬ、何とでもしてくれ」というのが
 自然だったのであろう。

「初心」に戻ろう!

上記の指摘は、実はすでに大戦中に「明白に確認されていた原則」であった。
 それが、時運に乱され忘れ去られた。

1930年代に重要な4科学者がブダペストから米に亡命してきた。その一人ユーゲン・ウィグナーは、
 最初の原爆用プルトニウム生産炉を実用化させた後、シカゴ大学で催された「原子炉セミナー」で、
 ノーベル学者たちの協力を得つつ彼が中心になって結論づけたのが上記の原則である。しかも
 「化学工学装置ならば反応媒体は“液体”が望ましく、その理想形態の原発は恐らく“熔融フッ化物
 塩燃料炉”とまで予言していたのである。そうまで言われると本当かと驚かれようが、彼に従って
 米オークリッジ研究所を整備した高弟のアービン・ワインバーグが次代所長となり、「熔融塩炉」の
 基礎開発を成功させたのである(1945-76年)。(上記原則を理解した世界の指導者達は、競って
 種々の「液体核燃料炉型」開発を志したが、他は皆「失敗」した。詳細略)

しかし、巨大開発投資はもう望むべきでない

“初心に戻れ“といったが、今は四,五十年前の「良き時代」とは本質的に異なる。
 詳細を語る余裕はないが、日本のみか諸国がよく「40年後の新炉型実用化」というが、
 40
年間「緊張を持続してプロジェクトに専念」はありえず、虚構である。

我々は、現実として「現原発産業」を二、三十年は維持利用する使命を持つが、その間に
 もっと「合理的な新技術産業」を数十倍規模で準備
し、未来に答えねばならない。
 しかもできるだけ「社会負担」を少なく実現・移行させるべきである。

不可能ではない。戦後は「活力に溢れた良い時代!」であった。その「過去の優れた遺産調べ」
 を行えば見事に可能であった。しかもさらに「単純で経済的システム」が構想できた。その実現・
 実用化への挑戦が、我々の「新事業:トリウム小型熔融塩原発FUJI提案」である。

新トリウム熔融塩原発」FUJI

これは実に僅かの資金と期間で実用化可能で、下記のように現存の諸難問のほとんどの解決に
 役立ち、世界に展開可能であろう。ただしその詳細は、是非拙著「原発安全革命」(文春新書)
 
でお知り頂きたい。

@ 決定的安全性:単純頑丈な常圧構造体であるが、少し液体燃料が漏れれば、燃料がなく
 なり炉は停まる。空気水などと反応せず、安定なガラス固化体になる。

A 高い核拡散抵抗性:プルトニウムなど超ウラン元素生成が千分の1でき、強烈なガンマ線で
 原爆にならず、核拡散・テロ防止に最適。

B  核廃棄物の減少:
  同上の理由の他に、運転・保守作業の僅少化で高・低レベル核廃棄物が大きく減少。

C  再処理作業の単純低廉化:燃料体の溶解・再製造が不要で、単純かつ低廉安全な作業
 となり、しかも既存使用済み固体燃料体を単純・経済的に処理処分でき、得られたプルト
 ニウム含有熔融塩を熔融塩炉初期燃料に有効利用しつつ消滅できる。

D 高性能小型炉型も経済的:単純常圧密閉炉容器でしかも小型でも「核燃料自給自足」可能。
              工場で量産でき、世界展開も容易。

E  高い経済性:柔軟単純で理想的原発。

F  少ない開発費:単純で開発項目僅少。しかも基礎開発完了しており、機器開発に
         「同じ高温融体炉のナトリウム技術」が流用可能。


G 
早い実用化:初期燃料に上記の「プルトニウム含有塩」を利用すれば、約10年強と
        1500億円で小型炉FUJIが完成できる。

 H現在の原発産業体系を乱すことなく、その難問課題ほとんどを打開救済しつつ、
  円滑に移行展開が可能である。今世紀中頃には、「世界の一次エネルギーの約半分」を
  供給できる、経済的で巨大な新原子力産業創生ができる。


 I CO
2 半減を十分経済的に実現可能。これに日本が「先導的役割」を果たし、
   自国の繁栄と共に世界の環境・貧困問題の打開、テロ防止に貢献すべきであろう。

この構想は、すでに1997年に日・米(含オークリッジ研)・露・仏・印・IAEAなど
 世界の熔融塩炉専門家24名の会議で、全員の支持を得た。また、チェコ・トルコ・ウクライナ・
 ベラルーシ・ベネズエラ等々にも優れた協力者がいる。すでに
その具体的「国際実用化作業」を
 開始している。積極的なご協力を強く要請したい。

                                (以上)


  最初の一万kW超小型炉miniFUJI。高温室に収め、皆裸。炉内は裸の黒鉛のみ。

  参考情報 http://msr21.fc2web.com/FUJI.htm