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「エイズ時代の性教育―米国の経験から」

第15回未来構想戦略フォーラム 平成15年4月16日 港区商工会館

古田武士氏 (米国法人,フリー-ディーンズ、日本代表)

 現代の性教育のあり方がこれで良いか否かを考える場にしたいと思います.日本では10代のうちに性体験する若者が増えています。誰もがなんとかしなければいけないと考えていますが、教育が混乱しています。性道徳が混乱した原因は性解放の風潮が広まってきたためです。

 フロイトの心理学の立場から性行動を抑圧することは不自然という考え方の影響もあり、精神的なものを無視した考え方が広まりました。米国では60年代以降、伝統的な価値観を疑問視し、ベトナム戦争に反対する運動が盛んとなり、戦争より「メイク・ラブ」しようとか、避妊薬が開発された結果、女性は妊娠の心配から解放されるようになりました。「フリーセックスは女性にとって当然の権利だ、セックスは男性に対して甘く、女性に厳しいというのはおかしい、結婚は封建的で女性を抑圧するものだ」という考え方が生れました。これはマルクス主義にも通じるものです。

 60年代以降、離婚は悪くないという考えが広まり、その結果、家庭を顧みない男性が増加し、家庭や子供の為に生きるという男性が減少し、貧困母子家庭が増加しました。母親が再婚すれば、夫婦間に家庭内暴力が増加し、子づれ再婚家庭の子供たちが虐待を受けるケースが増えましたし、家庭が崩壊した結果、青少年犯罪が増加しました。

 性体験があると非行化する傾向があり、未成年者が自分の子供を持つケースが増え、その結果として福祉予算が増え、"結婚をしない方がお金をもらえる"ということで離婚が増えました。そうしたことで、性感染症が爆発的に増えました.性感染症に感染しやすいのは性行動の活発な若者です。とくに女性の場合、性器官が未発達でかかりやすく、エイズにも感染する可能性が大きくなります。

 エイズに感染する原因はかって血液製剤や薬物常習者が注射針を消毒しないために多かったのですが、今はこれらの割合は減っています。エイズは最初感染した段階では症状がありません。10年ぐらいの潜伏期間を経て発症した段階で感染していることが分かるケースが多いのが実情です。エイズに感染すると免疫機能が減少し、カリニ肺炎などが発症して、死に至ります。最近は薬によって発症を伸ばすことができるようになりました。エイズに感染していてもわからないことが多いので、性行動する場合、相手の人が過去10年間に関係を持った多くの人とセックスするようなものだと言われています。このように世界ではエイズ患者の数が増えつづけ深刻な問題になっています。現在までに感染した人は約6600万人で、すでに2400万人が亡くなり、エイズ孤児が増えています。世界的に深刻な問題で性教育の必要性が叫ばれています。

 そこで日本での性教育ですが、日本の性教育はほとんどが包括的性教育と言われる自己決定を重視する性教育です。「子供たちがセックスに走るのは避けられない」という認識に基づいて、性行為、性感染症、避妊の仕方、コンドームなどについての包括的な知識を与えて、あとは自分で決定しなさい、エイズを予防するためには何よりもコンドームを使用しなさい、というものです。

自己決定を重視する性教育の問題は何かと言いますと、自己決定教育は却って性行動を活発化させる原因になることです。アメリカの統計によると、コンドームを配布している学校と配布していない学校の比較では配布している学校の妊娠率が増えているという報告結果があります。未婚の若者がセックスをためらう主な理由は性感染症や妊娠が怖いためですが"コンド−ムを使えば安全ですよ"と言われれば、"セックスはしても良いのですよ"というメッセージと受け取られます。安全なセックスを重視する性教育は若者の性体験を促進する結果となっています。

 コンドームはどれぐらい安全でしょうか。アメリカの報告ですが、必ずコンドームをつけての性交渉でも5組に1組は妊娠してしまった。男性だけがエイズにかかっているカップルでコンドームをつけてセックスしたが結果的に23パーセントが相手をエイズに感染させてしまった、という調査報告があります。コンドームを使えば必ず性感染症を防ぐことができるという科学的証拠はありません。多くの場合、相手にエイズだと告げて関係を持つことはないでしょうから、相手のことをよく知らず性関係を持つことは危険です。

 知識だけ与えて自分で決めさせる包括的性教育でなく価値観を教えるべきです。肉体的欲望だけでなく、家庭崩壊などが原因で性行動に走りやすく、性行動が活発化すればますます精神が傷つき、裏切られることで人を信用できなくなります。

 アメリカではコンドーム重視の自己決定の性教育ではなく、自己抑制の性教育を求める声が高まり、アメリカ連邦政府は自己抑制教育に多く補助金を出しています。自己抑制教育により性感染症などが大幅に減る効果があったという報告があります。

 「エイズを感染の危険から守るのは自己抑制教育」、「結婚までは安全なセックスではなく、セックスをとっておこう」という声が増えています。自己抑制の教育プログラムは貧困な家庭にも効果がありますし、未婚の男性に対する抑制教育で未婚の父親が減少しました。とくに性行動が活発な若者にもっとも効果がありました。

 性行動に影響を与える要因として将来に対する目標をもっていること、親の価値観(子供に対して厳格か自由放任か)、親と子のコミュニケーション、宗教観などがあります。親が避妊について肯定的に話すと子供は、親はセックスをしても良いと容認していると受け取りやすいので、親は子供に対して、結婚まではセックスはしないように教える必要があります。親が子供に甘いか厳格すぎる場合、性行動が増え、交際が低年齢化すると早く性行動に走る傾向があるという報告もあります。

 性感染症の問題について見ても、セックスをしないよう教える自己抑制教育の方が効果があります。「安全なセックス」や避妊について教えるよりも性欲に打ち勝つように教える必要があるのです。

 米国では自己抑制性教育が広範に実施されるようになった結果、10代で性体験する若者の割合は10年前に比べて10パーセント減少し、結婚までは純潔でいようと決意する若者が増えています。これはこれまでの性開放の風潮に反対する「新しい性革命」といわれています。又、禁欲教育はエイズその他の性感染症を予防する効果があり、かっての性解放先進国のアメリカではますます禁欲教育が重視される傾向にありますが、日本ではあいかわらず、性的欲望を刺激し、性解放を容認する風潮が一般的です。社会の諸問題を根本的に解決するためには、結婚以外のセックスはすべきでないという認識を広め、確立する必要があると考えます。